※ロストワックス鋳造のブロックモールド法（ソリッドモールド法）の解説です。
このコラムは、当社コラムのカテゴリー「鋳造技術を学ぶ」内の「湯道方案」のシリーズで掲載されている「ホットスポットの対策｜鋳造で大切な湯道方案」の続編です。
本稿では、収縮鋳巣の主要な原因であるホットスポットの対策について、3D CADを用いた設計アプローチの観点から考察します。これらの知見を通じて、鋳造品の品質向上と歩留まり改善に貢献することを目指します。
このコラムのTOPICS
ホットスポットを考慮したCAD設計
ホットスポットと収縮鋳巣
なぜ交差点や角部でホットスポットが発生するのか？
幾何学的な特徴／熱容量と冷却効率の物理学
応力集中とホットスポットの緩和
冷却を考慮した鋳造物の設計変更
対処方法のまとめ
ホットスポットを考慮したCAD設計
現代の製造業において、3D CADによる設計は不可欠な技術基盤となっています。特に、ロストワックス鋳造のような精密な工程では、この技術の活用が生産性の向上に大きく寄与しています。マシニング加工では困難な複雑な形状の部品製造においては、3Dプリンターで作成した造形物を直接鋳造するダイレクトキャスティングが、一部の産業分野で徐々に広まりつつあります。
3D CADを用いることで、正確な肉厚調整などが可能となり、鋳造の課題を設計段階で解決することが可能になります。製品の寸法や形状をデジタルデータとして扱うことで、収縮鋳巣の発生が予測される箇所を特定し、その対策を講じることができます。
具体的には、製品の要求精度に影響を与えない範囲で微妙な形状変更を加えたり、溶融金属の流れや凝固を最適化するための湯道設計を理論的に検討したりすることが可能となります。
ホットスポットと収縮鋳巣
鋳造工程において、製品の品質と歩留まりを左右する重要な課題の一つが収縮鋳巣の発生です。これは、溶融金属が凝固する際に生じる体積収縮に起因するもので、特に凝固が遅れる部分、すなわちホットスポットに集中して発生しやすい傾向があります。
これらのホットスポットを適切に制御することは、鋳造品の健全性を確保する上で不可欠です。
なぜ交差点や角部でホットスポットが発生するのか？
交差点や角部でホットスポットが発生する主な理由は、熱容量と凝固遅延です。
単純に言えば、ホットスポットの発生は、熱が逃げにくい場所で起こります。熱は主に鋳型との接触面（表面）から外部に放出されるため、鋳造品の形状が複雑になると、この熱の放出効率が部分的に低下します。
この現象は、物理学における「体積に対する表面積の比率」で説明できます。
■ 熱容量と体積の関係
鋳造物の熱容量（保持できる熱の総量）は、その体積に比例します。
■ 冷却効率と表面積の関係
鋳造物の冷却効率（熱が逃げる速さ）は、鋳型と接している表面積に比例します。
この凝固遅延により、指向性凝固が阻害され、交差点は鋳造品全体の中で最後に凝固する部分となり、収縮鋳巣や割れなどの欠陥が発生しやすくなります。
幾何学的な特徴／熱容量と冷却効率の物理学
鋳物の健全性は、「熱容量」と「冷却効率」のバランスに大きく依存します。
鋳型に注がれた高温の溶湯の熱は、鋳型内空洞の内面から鋳型外に向かって放出され冷却されます。
L字などの角部や特にT字やY字などの内角や十字の交差点内では、複数の腕の部分が合流するため、局所的に体積が大きくなります。
しかし、この増大した体積に対して、表面積の増加は相対的に小さくなるため、ここに留まる溶湯の熱が放出できにくくなります。
この冷却プロセスは、以下の物理的な関係で説明できます。
1. T字交差部の体積と表面積の物理学 （計算式による比較）
例えば、2つの四角い棒が直角に交わるT字の角を考えます。
■ 棒の部分
体積がV、表面積がAとすると、熱を放出する効率はA/Vで表せます。
● 交差点の部分は、体積がV=2Vとなり、同時に表面積 A<2Aです。
● 結果として、角部ではA/V (A÷B) の比率が、単独の腕の部分よりも小さくなります。
ここでは、縦横が S 、長さが L の四角い棒を考えます。
■ 単体の棒
● 体 積 V: V=S2×L
● 表面積 A: A=4SL+2S2 （側面4面と両端2面の合計）
■ T字交差部
2本の棒をT字に組み合わせると、その交差部には重なりが生じます。この重なりを考慮して、交差部の体積と表面積を計算します。
■ 体 積 (V junction)
単純に2本の棒の体積を足し合わせると 2V となりますが、実際に重なっている部分は2回カウントされているため、その部分を1回分差し引く必要があります。
重なり部分は縦横 S 、長さ S の立方体と見なせますので、
V junction = 2V−S3 V junction = 2S2L−S3 が成り立ちます。
このことから、V junction は 2V よりも小さくなりますが、T字部分の全体として見ると、それぞれの棒の先端 L−S の部分を考慮した総体積は、2V−S3となります。
ここでいうV junction > 2Vという元の説明は、T字の"交差部"に特化した見方であり、2本の棒が合わさることで熱を蓄える部分が増えることを示しています。
例えば、それぞれの棒が交差する中心部分を基準にすると、体積が単体の棒の2倍以上になる部分が生まれます。
■ 表面積 (A junction)
2本の棒の表面積を足し合わせると 2A となりますが、交差部で接触している2つの面（面積 S2）は内部に隠れるため、表面積からは除外されます。
また、それぞれの棒の端面も隠れます。
A junction=2A−4S2 A junction = 2(4SL+2S2)−4S2 A junction = 8SL+4S2−4S2 A unction=8SL
この結果、A junction は 2A よりも明らかに小さくなります。
■ 結 論
● T字交差部の体積は、単純な棒の2倍よりも大きい部分を持つ。
熱を蓄えやすい
● T字交差部の表面積は、単純な棒の2倍よりも小さい。
熱を逃がしにくい
2. 直角に曲がる丸棒の物理学（計算式による比較）
単純化のため、90°に曲がる角部を、内側と外側の2つの四分円柱（扇形柱）で構成されると仮定して計算します。
ただし、この計算は厳密なものではなく、概念を理解するためのものです。
内側の四分円の半径をr内=0.5 cm、外側の四分円の半径をR外= 1.5 cmとし、曲がる部分の長さをL（曲）=1.5cm（中心線で計測）とします。
■ 体 積
V曲 体積は、全体の四分円柱から内側の四分円柱の体積を引いて求められます。
V曲=41×(πR外2×L曲)−41×(πR内2×L曲)
V曲=41πL曲(R外2−R内2)
V曲=41π(1.5)(1.52−0.52)=41π(1.5)(2.25−0.25)=41π(1.5)(2)=0.75π≈2.36 cm3
■ 表面積
A曲 表面積は、上下面の面積+外側面の面積+内側面の面積+両端の断面積で構成されます。
A曲=41π(r外2−r内2)×2 (上下の面) + 41(2πr外×L曲) (外側面) + 41(2πr内×L曲) (内側面) + L曲×D (両端の端面) A曲=0.75π+21πr外L曲+21πr内L曲+DL曲 A曲=0.75π+21π(1.5)(1.5)+21π(0.5)(1.5)+(1)(1.5) A曲=0.75π+1.125π+0.375π+1.5=2.25π+1.5≈8.57 cm2
■ 体積に対する表面積の比率 A/V曲
A/V曲=0.75π2.25π+1.5≈2.368.57≈3.63 cm−1
■ 結 論
直線部分の**A/V直≈5 cm−1に対し、曲がる角部のA/V曲≈3.63 cm−1となり、角 部の比率が小さいことが分かります。
この比率の低下が、熱の放出効率の悪化を物理的に示しており、角部に熱が集中するホットスポットを形成する根本的な理由です。
応力集中とホットスポットの緩和
鋳造物が冷却・凝固する際に収縮する力は、鋭い角に集中しやすくなります。この応力集中を緩和し、熱容量の集中を防ぐための最も基本的な対策が、角に丸みを持たせるフィレットの配置です。フィレットは、T字、Y字、十字、L字といったあらゆる角部に有効です。
冷却を考慮した鋳造物の設計変更
鋳造では、凝固が「順次凝固」、（指向性凝固）、つまり溶湯が溶けた状態のまま残っている部分（湯道や押し湯）に向かって進むように設計することが理想的です。
角にフィレットを配置しても、充分な放熱効果が得られない場合には、可能であれば鋳造物の設計変更も検討する必要があります。
ロストワックス鋳造では、チル（冷却用の金属片）を鋳型に配置することはできませんが、二次加工を前提とする場合には、冷却フィンや交差点にテーパーを付けたり、角部の内角を肉抜きしてホットスポットの熱を強制的に放出させたりします。
■ テーパー設計
鋳造は、押し湯（溶湯を供給する部分）から最も遠い部分が先に固まり、押し湯に向かって順次凝固していくのが理想です。
これを実現するためには、製品の肉厚を押し湯から遠ざかるにつれて徐々に厚くするテーパーを設けます。これにより、凝固が健全な方向性をもって進み、引け巣の発生を防ぐことができます。
■ 肉抜き（軽量化）
L字の角など、形状によっては内側の角に丸い溝を設ける「肉抜き」も有効な場合があります。これにより、局所的に体積を減らして冷却効率を向上させ、ホットスポットを分散させることができます。
■ フィン配置
エンジンの表面には多数のフィンが取り付けられており、放熱が効率よく行えるよう設計されています。鋳造物においても、熱が集中する場所に薄い板状のフィンや細い棒などを取り付け、局部的な冷却効率を促進させます。
対処方法のまとめ
T字交差点
T字交差点は、内部の隅に熱がこもりやすく、凝固遅延が起こりやすくなります。
| T字交差点 | |
| 対 処 法 | |
| ■ フィレットの追加 | 角R（フィレット）を大きくすることで、熱が集中する鋭い角をなくし、熱の拡散を助ける。 これにより、凝固がより均一に行われることが期待できる。 |
| ■ 溶湯の積極的な冷却 | ロストワックス鋳造の場合には、砂型鋳造のようなチルは鋳型内に配置ができない。しかし、鋳造後の二次加工を前提とするのであれば、交差点の鋳型に冷却用のフィンを配置し、その部分の熱を積極的に奪う。 |
| ■ フィンの配置 | フィンや細い棒状の冷却フィンをT字の交差点に配置し、ホットスポット部の熱を強制的に速く逃がす。 |
Y字交差点
Y字交差点は、T字よりも角度が緩やかですが、やはり内部の角度部分で熱が集中します。
| Y字交差点 | |
| 対 処 法 | |
| ■ フィレットの追加 | T字と同様に、フィレットを追加して熱の集中を緩和する。 |
| ■ 傾斜の緩和 | 腕部分の傾斜をより緩やかに設計することで、材料の厚み変化を減らし、凝固の不均一を防ぐ。 |
十字交差点
十字交差点は、4つの腕が交わるため、最も熱が集中しやすい形状です。
| 十字交差点 | |
| 対 処 法 | |
| ■ フィレットの追加 | すべての角に大きなフィレットを追加し、熱の集中を分散させる。 |
| ■ 溶湯の冷却 | 鋳型の交差部分冷却フィンを配置することは、十字交差点では特に有効。 |
| ■ 形状変更 | 鋳造品の肉厚が均一になるように設計を工夫することで、ホットスポットの発生を抑える。例えば、交差点部分の厚みをあえて薄くする「肉厚調整」や、材料を徐々に厚くする「テーパー」を付けることで、凝固の方向性を制御する。 |
| ■ フィンの配置 | T字と同様にフィンを配置し、ホットスポット部の熱を強制的に速く逃がす。 |
L字交差点
L字部は、凝固時の応力が残る場所で、鋳造物の厚みによっては割れが発生したり、Ｌ字の角度の開きが鋭角であれば90°の場合と比較すると、より冷却効率が下がり、角の内側に収縮鋳巣が発生する場合があります。
| 十字交差点 | |
| 対 処 法 | |
| ■ フィレットの追加 | L字の場合でも、L字の外角と内角それぞれにフィレットを配置して角を丸くして表面積を増やす方法が取られる。 |
| ■ フィンの配置 | Ｌ字の外角、又は内角に冷却用のフィンを取り付ける。二次加工での作業性を考慮して、板状ではなく棒状のフィンが推奨される。 |
| ■ 肉抜き | L字の内角の角に丸い溝で角を抜き取る方法で、表面積を広くしながら、棒本体の角部の体積を小さくする。 |
| ■ 肉抜きの注意点 | くり抜く丸溝の直径が大きく、角部の体積があまりにも多く削がれてしまうと、この部分で冷却過多となり、結果的に指向性凝固が阻害される場合があるため、棒本体断面と角部断面の体積が同等になるように設計する必要がある。 |
以上の考察は、設計をCADで行うことが前提で、CADであれば、使用するCADのアプリケーションソフトの仕様にもよりますが、断面積や体積計算が容易で、3Dプリンターを使用することにより、CADデータの正確な再現が可能となるため、形状やデザインの制約がある中でも、事前の鋳造欠陥防止の対策になります。
鋳物の冷却効率を検討することは、ホットスポットと密接に関係がある収縮鋳巣の防止や形状によっては冷却温度の速度による偏析の防止にもつながる重要な要素です。