※ロストワックス鋳造のブロックモールド法(ソリッドモールド法)の解説です。
鋳造欠陥の中でも鋳造者を悩ます問題の一つに鋳巣があげられます。
鋳巣の原因は様々あり、その種類によって対応策が異なるからです。代表的な鋳巣の原因は、ゴマ鋳巣など温度に関連する鋳巣、金属の凝固プロセスと溶湯の温度に関連する収縮鋳巣、鋳型材の通気性・焼成の工程に関係するガス鋳巣などが挙げられます。
このコラムでは、ガス鋳巣発生の要因となる鋳型の通気性と残渣が残りにくい鋳型の焼成について説明していきます。
ガス鋳巣の主な原因
ガス鋳巣が発生した場合、以下の項目について正しく行われているか確認します。
主な原因 | 確認することがら |
埋没材の混水比 | シリカ系埋没材などバインダーを使用する埋没材の場合のバインダーの濃度。 石膏系埋没材の場合の水との混合比 |
焼失型(ワックスなど)の材料 | 彫刻用ワックスや光造形システムで使用するキャスタブルレジンなど、 通常のインジェクションワックス以外の素材に合わせた適切な鋳型の昇温が行われているか。 |
鋳型の脱ロウ工程 | 熱によりワックスやキャスタブルレジンなどを溶解及び燃焼させるプロセスで正しい温度と適切な時間でおこなわれているか。 |
ルツボなどから発生するガス | ルツボ内の溶解地金を凝固させ、そのままルツボから取り出し、地金の底部を観察する |
地金から発生するガス | 押し湯など、リターン材やリジェクト品の再生地金にガスが残留している可能性がある。 |
埋没材の混水比
ブロックモールド法による鋳造の場合、鋳型内に残留するガスや地金から発生するガスを鋳型の通気性を利用して、型外に押し出します。
埋没材の密度が高すぎると、この通気性が阻害され鋳型内にガスが残留してガス鋳巣の原因となる場合があります。
無結合型埋没材
シリカ系埋没材に代表される無結合型埋没材は、バインダーをつかって埋没材を固めます。鋳造方案により異なりますが、バインダーが原液の場合には、水で希釈してから埋没材と混合します。
バインダーと水の希釈率を確認する必要があります。また、バインダー水溶液と埋没材の混水比も確認します。
加圧鋳造の場合、特に鋳型の通気性が必要となります。混水比などが適切でも、鋳型焼成の最終段階である最高温度の時間が長い場合には、バインダーの焼結が過剰となり、鋳型の通気性が損なわれる場合があります。900~950℃の焼成時間は5時間以上行わないようにします。
無結合型埋没材(当社製シリカ系埋没材/ALL 89 の場合) | |
遠心鋳造 | ■バインダー希釈率 5% (水960cc+バインダー40cc) ■埋没材との混水比 1)手練りの場合/36~38%(埋没材1Kg:バインダー水溶液360~380cc) 2)機械練りの場合/28~32%(埋没材1Kg:バインダー水溶液280~320cc) |
加圧鋳造 | ■バインダー希釈率 4% (水960cc+バインダー40cc) ■埋没材との混水比 手練りの場合/40%(埋没材1Kg:バインダー水溶液400cc) 機械練りの場合/同上 |
石膏系埋没材
石膏系埋没材の場合、水の量が少なくても一定の通気性があるため、ガス鋳巣が発生する可能性は無結合型埋没材より少なくなりますが、念のため確認が必要です。
石膏系埋没材(当社販売の石膏系埋没材) | |
加圧鋳造 | ■混水比 手練りの場合/36~40%(埋没材1Kg水360~400cc) 機械練りの場合/35~40%(埋没材1Kg水350~400cc) ※混水比が低い場合や水温が高いと凝固が速くなるので注意 |
吸引鋳造 | ■混水比 同 上 |
焼失型(ワックスなど)の種類と焼成温度勾配
ロストワックス鋳造(ブロックモールド)の焼成温度勾配は、ゴム型に射出成型するインジェクションワックスが基本となります。焼失型の素材が異なると、それに合わせた焼成温度勾配が必要となります。
焼成工程でガス鋳巣と関連する重要なプロセスは脱ロウ工程での温度処理です。脱ロウ工程で焼失型が燃え切らず炭化すると、鋳造時に鋳型内に残留する炭化物が鋳込みの時の溶湯により熱せられガスを発生します。焼失型の素材によっては、最終温度(石膏系埋没材の場合には750℃、シリカ系埋没材の場合には900~950℃)で残渣が残るため、焼失素材(例えば木や虫などの現物鋳造)により最高温度での係留時間を長くする必要があります。
また、ロストワックス鋳造の鋳型は、鋳型内の焼失型を完全に燃やす必要があります。燃やすためには充分な空気がないと不完全燃焼となり残渣が残ります。鋳型焼成中に適切な炉内換気が行われているかも確認が必要です。
一般的な焼成温度勾配
石膏系埋没材 | |
U P ↑ ■ 室温から150℃まで | 15分 |
KEEP→ ■ 150℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 150℃から750℃ | 180~240分(3~4時間) |
KEEP→ ■ 750℃で係留 | 60分(1時間) |
DOWN ↓ ■ 鋳造温度(任意) | 希望する鋳型温度に下げて、そのまま1時間係留 |
シリカ系埋没材 | |
U P ↑ ■ 室温から150℃まで | 15分 |
KEEP→ ■ 150℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 150℃から950℃ | 240~300分(4~5時間) |
KEEP→ ■ 950℃で係留 | 60分(1時間) |
DOWN ↓ ■ 鋳造温度(任意) | ■加圧鋳造:900~950℃で鋳造 ■遠心鋳造:希望する鋳型温度に下がったら1時間係留 |
マルチジェット方式のワックス/彫刻用ワックスなど高融点ワックス
石膏系ワックス | |
U P ↑ ■ 室温から150℃まで | 15分 |
KEEP→ ■ 150℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 150℃から350℃まで | 30から60分(0.5~1時間) |
KEEP→ ■ 350℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 350℃から950℃まで | 180分(3時間) |
KEEP→ ■ 950℃で係留 | 60分(1時間) |
DOWN ↓ ■ 鋳造温度(任意) | 希望する鋳型温度に下げて、そのまま1時間係留 |
シリカ系埋没材 | |
U P ↑ ■ 室温から150℃まで | 15分 |
KEEP→ ■ 150℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 150℃から350℃まで | 30から60分(0.5~1時間) |
KEEP→ ■ 350℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 350℃から950℃まで | 180から240分(3~4時間) |
KEEP→ ■ 950℃で係留 | 60分(1時間) |
DOWN ↓ ■ 鋳造温度(任意) | ■加圧鋳造:900~950℃で鋳造 ■遠心鋳造:希望する鋳型温度に下がったら1時間係留 |
キャスタブルレジン(SLA方式・DLP方式)
石膏系埋没材 | |
U P ↑ ■ 室温から100℃まで | 60分(1時間) |
KEEP→ ■ 100℃で係留 | 90分(1.5時間) |
U P ↑ ■ 100℃から150℃まで | 15分(0.25時間) |
KEEP→ ■ 150℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 150℃から350℃まで | 30から60分(0.5~1時間) |
KEEP→ ■ 350℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 350℃から750℃まで | 180分(3時間) |
KEEP→ ■ 750℃で係留 | 60から120分(1~2時間) |
DOWN ↓ ■ 鋳造温度(任意) | 希望する温度に下がったら1時間係留 |
※ 注 意 | ■レジンとワックスの混合比により彫刻用ワックスの焼成も適用が可能 ■弊社販売のDLP用キャスタブルレジンJC-01Rの場合では、彫刻用ワックスの焼成で可能 |
シリカ系埋没材 | |
U P ↑ ■ 室温から100℃まで | 60分(1時間) |
KEEP→ ■ 100℃で係留 | 90分(1.5時間) |
U P ↑ ■ 100℃から150℃まで | 15から30分(0.25~0.5時間) |
KEEP→ ■ 150℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 150℃から350℃まで | 30から60分(0.5~1時間) |
KEEP→ ■ 350℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 350℃から950℃まで | 180分(3時間) |
KEEP→ ■ 950℃で係留 | 60から120分(1~2時間) |
DOWN ↓ ■ 鋳造温度(任意) | ■加圧鋳造:900~950℃で鋳造 ■遠心鋳造:希望する鋳型温度に下がったら1時間係留 |
※ 注 意 | ■レジンとワックスの混合比によりシリカ系埋没材の使用が不可能な場合もあり。 ■弊社販売のDLP用キャスタブルレジンJC-01Rの場合では、彫刻用ワックスの焼成で可能。但し、鋳肌はインジェクションワックスと比べ荒れる |
FDM方式によるPLA樹脂
石膏系ワックス | |
U P ↑ ■ 室温から60℃まで | 15分 |
KEEP→ ■ 60℃で係留 | 60分(1時間)※大きな物の場合には2時間 |
U P ↑ ■ 60℃から175℃まで | 30から60分(0.5~1時間) |
KEEP→ ■ 175℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 175℃から350℃まで | 180分(3時間) |
KEEP→ ■ 350℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 350℃から750℃まで | 60分(1時間) |
KEEP→ ■ 750℃で係留 | 60分(1時間) |
DOWN ↓ ■ 鋳造温度(任意) | 希望する鋳型温度に下げて、そのまま1時間係留 |
シリカ系埋没材 | |
U P ↑ ■ 室温から60℃まで | 15分 |
KEEP→ ■ 60℃で係留 | 60分(1時間)※大きな物の場合には2時間 |
U P ↑ ■ 60℃から175℃まで | 30から60分(0.5~1時間) |
KEEP→ ■ 175℃で係留 | 60分(1時間)※大きな物の場合には2時間 |
U P ↑ ■ 175℃から350℃まで | 180分(3時間) |
KEEP→ ■ 350℃で係留 | 60分(1時間) |
U P ↑ ■ 350℃から950℃まで | 60分(1時間) |
KEEP→ ■950℃で係留 | 60分(1時間) |
DOWN ↓ ■ 鋳造温度(任意) | ■加圧鋳造:900~950℃で鋳造 ■遠心鋳造:希望する鋳型温度に下がったら1時間係留 |
ルツボから発生するガス
鋳造時に使用するルツボからも稀にガスが発生する場合があります。
確認方法として、ルツボ内で溶解した地金を凝固させ、完全に冷めた状態でルツボから取り出します。そして、凝固した地金の底部を観察します。もし鋳巣のような大きな穴が開いているようでしたらルツボから発生するガスの可能性があります。この場合には、ルツボを変えるしか方法はありませんが、脱酸材を添加して脱ガスを行う方法もあります。
但し、ルツボ底部(溶湯が凝固した後に地金塊を取り出したときの地金の底部)の鋳巣穴は比較的大きな場合が対象となります。小さな穴の場合には溶解地金から発生している可能性もあります。
地金から発生するガス
まず、工業用の鋳造地金を除き、それ以外の金属は鋳造を想定していない合金もあるため、新しい地金にガスの混入が無いとは言い切れません。
貴金属であっても、新しい地金は貴金属の品位については保証されていますが、鋳造に対して健全な地金であるかの補償はありません。
また、貴金属以外の鋳造では、押し湯やスプルー線など、製品部以外の地金を再鋳造品に使うことは稀だと思いますが、貴金属の場合には地金そのものが高価のため、残った地金を次の鋳造で再使用します。貴金属以外でリターン材を使用する場合には、一度リターン材を溶解し、新しいヴァージンメタルと混合して再溶解し、脱ガスの工程を踏んでから再利用する必要があります。
また、押し湯やスプルー線以外の落ち粉も再利用する場合があるかと思います。ヤスリで切削した落ち粉やバフで研磨したあとのバフ粉は、様々な異物、例えばヤスリ研磨の場合には鉄粉が、バフからの落ち粉にはバフ研磨材の酸化物が混入しているため、再溶解時に地金の成分が変わったり、ガス鋳巣の発生の原因となります。
また、誘導加熱での溶解では粉体は誘導加熱のインピーダンスが変わり高周波誘導加熱装置の故障の原因となりますので注意が必要です。
上記の理由で、一度使用した鋳造地金は、新しい地金とリターン材を1:1(少なくとも1:2)で再溶解します。
再溶解には、脱酸材などを投入して脱ガスを行います。
時間があれば、溶解した地金をアケ型などに空けてからハンマーなどで地金を叩いたり、ローラーをかけて地金内のガスを物理的に外に追い出します。
プラチナ合金に限っていうと、プラチナ用の脱酸材はありますが、リターン材の中に残留し、含有量が多くなるとプラチナ合金が割れる現象が発生します。このため、鋳造前にプラチナ合金を溶解し、凝固させたあとのルツボ内の地金の表面を観察します。もし、地金の中央がドーム状に膨らんでいる場合には、再度溶解し、地金の中央が「平」か「へこむ」まで繰り返します。同じ作業を数回行っても地金の表面に変化がない場合に限り脱酸材の使用を検討して下さい。
各金属に適した脱酸材は、別のコラム「ガス鋳巣対策/金属中のガスを取り除く脱酸材について」でその種類や効能を紹介していますので、参照して下さい。