煮色仕上げ( にいろしあげ)
Niiro Finish / Boiling Coloration / Niiro Chamical Russeting
金属表面処理の日本に伝わる伝統技法。
特定の合金(赤銅や四分一など)の表面に人為的に「安定した美しい酸化被膜」を発生させる硬度な化学処理。
色金を組み合わせる「象嵌(ぞうがん)」や「木目金(もくめがね)」に煮色仕上げを施すと一段階の工程で各部分が別々の色に染まり、非常に色鮮やかな作品を作ることができる。
江戸時代の刀装具職人たちが極めたこの技法は、現代でも伝統工芸の世界で受け継がれている。
使用する薬品(煮汁の成分)
煮汁のレシピは工房ごとに秘伝とされるが、基本的には以下の2つを水に溶かして沸騰させる。
■ 硫 酸 銅(りゅうさんどう / 丹礬:たんぱん)
■ 塩基性炭酸銅(緑青:ろくしょう)
この「緑青」は、古い寺院の屋根に見られるような青緑色の酸化物である。これに薬品としての硫酸銅を加え、絶妙なバランスで煮ることで金属表面を保護する強固な被膜を作る。
煮色仕上げ(色上げ)の工程
常に繊細な作業であり、少しの油分や汚れがムラの原因になります。
① 徹底した脱脂と磨き
「胴刷り(どうずり)」と呼ばれる工程。
炭の粉や重曹などを使い、指の脂すら残らないように表面を極限まで磨き上げる。
➁ 大根おろし液に浸す
古くからの知恵として、煮込む直前に大根おろしの汁に浸す。
大根に含まれる成分が表面の酸化を防ぎ、着色を均一にする効果があると言われているが、現代科学でも完全に解明されていない不思議な伝統技法。
③ 煮込み(にあげ)
銅製の鍋に煮汁を沸かし、作品を投入する。
● 作品が鍋底に触れると跡がつくため、竹かごに入れて浮かせたり、銅線で吊るしたりする。
● 液が沈殿しないよう常に撹拌しながら、数十分〜数時間煮込む。
④ 色留め(いろどめ)
好みの色になったら取り出し、水洗いして乾燥させる。
最後に被膜保護のため、イボタロウ(蝋)や蜜蝋などを薄く塗り、光沢を出す。
煮汁の基本レシピと調整
煮汁の基本は「水+緑青(ろくしょう)+丹礬(たんぱん:硫酸銅)」だが。狙う色によって以下のような調整が行われるようである。
■ 赤 銅(黒を出したい場合)
赤銅は比較的色がつきやすいため、標準的な濃度で煮る。
ただし、青みを強く出したいときは、わずかに配合を変えたり、煮る時間を長くして被膜を厚くしたりしする。
■ 四分一(グレーを出したい場合)
銀が含まれているため、赤銅よりも発色がデリケートとなる。
煮汁の濃度が濃すぎると色がくすんでしまうため、少し薄めの液でじっくりと色を見極めながら煮ることがあるようである。
■ 素 銅(赤を出したい場合)
赤銅を煮る時よりも少し「若め(短時間)」に引き上げたり、液の温度を微調整して、茶色に転びすぎない鮮やかな「緋色」を狙う。
特殊な色上げ
「煮る」以外にも、特定の色のために特別な工程を加えることがある。
■ 焼 色(やきいろ)
煮汁に入れる前に、金属を火で軽く炙ってあらかじめ酸化膜を作る手法。
これにより、煮た後の色の深みや定着が変わります。
■ 差し金(さしがね)
煮汁の中に、あえて少量の金粉や他の薬品を「隠し味」として加える職人もいるようである。
これは、より複雑な色味(例えばより紫がかった黒など)を出すための秘伝の技法である。
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