エルビウム
Erbium
1843年、スウェーデンの化学者**カール・グスタフ・モサンデル(Carl Gustaf Mosander)は、イットリア(酸化イットリウム)の詳細な分析を行う中で、新たな希土類元素を発見した。モサンデルはイットリアが単一の物質ではなく、複数の希土類元素(レアアース)から構成されていることを明らかにし、その中からエルビウムとテルビウムを分離した。しかし当時は精製技術が未熟であったため、両元素の名称や性質は長年混同されていた。20世紀初頭になり高純度の分離技術が確立され、現在のエルビウムとしての性質が明確になった。
元素名(Erbium)は、スウェーデン・ストックホルム近郊のイッテルビー(Ytterby)という村に由来している。この村で採取された鉱石の研究から、イットリウム(Y)、テルビウム(Tb)、イッテルビウム(Yb)とともに命名された元素であり、一つの村の名前から4つもの元素名が誕生したことで世界的に知られている。
エルビウムは、第6周期・ランタノイド系列に属する希土類元素(レアアース)であり、銀白色で比較的柔らかい金属である。電子配置は [Xe] 4f¹²6s²、価電子数は3個で、通常は+3価の酸化状態を示す。空気中では比較的安定しているが、高温では酸化しやすい。化学的性質は他のランタノイド元素と非常によく似ており、天然では他の希土類元素と混在して存在するため、高純度で分離するには高度な精製技術が必要である。
天然では主にモナザイト、バストネサイト、ゼノタイムなどのレアアース鉱石中に含まれている。単独鉱床はほとんど存在せず、他の希土類元素の精製工程で分離・回収される。
エルビウムは、光通信の分野で極めて重要な元素である。エルビウムを添加した光ファイバー(EDFA:エルビウム添加光ファイバー増幅器)は、光信号を電気信号へ変換することなく直接増幅できるため、長距離光通信の基幹技術となっている。現在のインターネットや海底光ケーブルによる国際通信は、この技術によって支えられている。また、エルビウムレーザーは水への吸収率が非常に高いことから、歯科治療や皮膚治療、医療用レーザーとして広く利用されている。さらに、ガラスやセラミックスに添加すると美しい淡いピンク色を呈するため、高級ガラスや装飾品の着色剤としても使用されている。
| 元 素 記 号 | Er |
| 陽 子 数 | 68 |
| 価 電 子 数 | 3 |
| 原 子 量 | 167.259 |
| 融 点 | 1529 |
| 沸 点 | 2868 |
| 密 度 | 9.07 |
| 存 在 度 | 地球 約3.5 ppm 宇宙 約0.0003ppm(質量比) |
| 代表的な製品 | エルビウム添加光ファイバー増幅器(EDFA)、光通信設備、海底光ケーブル、医療用レーザー、歯科用レーザー、高級ガラス、着色ガラス |
私たちが海外のWebサイトを閲覧したり、動画を視聴したりできるのは、世界中に張り巡らされた海底光ケーブルのおかげです。そして、その長距離通信を支えているのがエルビウム添加光ファイバー増幅器(EDFA)です。
光ファイバー内を進む光は、数十km進むごとに弱くなってしまいます。以前は一度光を電気信号へ変換して増幅する必要がありましたが、エルビウムを添加した光ファイバーの開発により、光のまま直接増幅できるようになりました。この技術によって高速・大容量通信が飛躍的に発展し、現在のインターネット社会の基盤が築かれました。
普段目にすることはほとんどありませんが、エルビウムは世界中の情報をつなぐ「インターネットを支える元素」の一つといえるでしょう。
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