鋳造後、製品部分を取り分けた後センタースプルーや押し湯などが残ります。
このような一度鋳造に使用した地金(リターン材)をそのまま再利用すると、地金に残留する内包ガスや、リターン材の表面に微量に付着した埋没材による石膏ガスなどで予期せぬ鋳造欠陥を招く場合があります。
この工程では、リターン材を再利用しながら次の鋳造のための『最良の鋳造地金』を作る工程をご紹介します。
地金の再生の基本
鋳造までの間には、様々な鋳造前工程があります。そのどの工程における問題も、最後の鋳造結果でしか判断することができません。『より良い鋳物』をつくる努力を無駄にしないためにも、使用する鋳造地金に最大の注意を払う必要があります。
地金のガス
地金に内包されるガスには、大別して酸化硫黄系ガスと酸素系のガスがあります。
溶解金属の特性として、地金を高温にすると膨張し、広がった金属分子間の『隙間』に酸素などのガスが入り込みやすくなります。地金に入り込んだ酸素の一部は金属(貴金属合金の場合、特に割り金として含有される銅等)と結合して『酸化物』になり、地金内に安定した形で内在されます。『酸化物』は、もはや金属の特性は失われていますので、この酸化物が多く含有された金属は粘性が損なわれたり、脆性が増して割れたりする弊害をもたらします。
溶湯の凝固時に取り込まれたガスの一部は排出されますが、ガスが排出された『通り道』が地金表面に残ったり、凝固時間内に金属内部から脱出できなかったガスは、金属内に『空洞』として残留し鋳造欠陥を引き起こします。(※『空洞』や『ヘコミ』は、残留ガス以外の原因で発生する場合もあります。詳しくはこちら。)
不適切な地金を使用した結果現れる鋳造欠陥は、地金自体が含有する割金成分による物理特性を除いて、『ガス鋳巣』『ヘコミ』『ガスによる割れ』など様々な形態で現れます。一度鋳造した地金を再使用する場合には、出来るだけ内包するガスを取り除き、ガスによる鋳造欠陥のリスクを排除する必要があります。もしできるのであれば、一度インゴットにした地金をハンマーやローラーでつぶして、物理的にガスを追い出す方法もあります。
粉地金の再生は行わないでください
切削工具からでる金属の混入や、その他不確定な物質の混入を招く恐れがあります。厳密に言えば、ガスの問題以前に地金純度にも微妙な狂いが発生する危険性があります。再利用する時は、地金精錬業者に委託して再生を行ってください。
脱酸材について
脱酸剤の使用量は、地金総重量に対して1/1000から2/1000程度(重量比)です。
亜鉛
鋳造用金合金には予め亜鉛が含まれている地金も販売されていますが、亜鉛は高温にさらされると地金から蒸発して失われてしまうので、添加分量を守れば、再生時に再添加しても含有過多にはなりません。
リン銅
一方リン銅は、地金内に残留するので添加過多には注意が必要です。
脱酸材の効能は、この金属と結合した酸素を、金属からある意味で強制的に引き離し、『脱酸材-酸素』の形にさせます。この『脱酸材-酸素』の結合分子は金属の表面に浮いて行く特性があり、溶湯表面に達した『脱酸材-酸素』は大気へと放出されます。この特性を生かして、溶湯内に残留する酸素などの鋳造に有害なガスを強制的に排除し、地金内の内包ガスの含有量を減らすことが可能です。
しかし、必要以上の量を添加すると地金に悪影響を及ぼしてしまいますので『ご使用の際には、用量・用法を守り、正しくお使い下さい』。ちなみに亜鉛の多すぎる地金(特に銀)はドロッとして、地金が『モタつく』感じになります。また、リン銅を入れすぎると地金が割れやすくなります。
適量の脱酸材を入れた地金は、アケ型などにあけ、酸洗い(ピックリング)により酸化膜を除去した後に、ルツボに入る程度に切り分けておきます。また、酸洗い後に延べ槌(金属を延ばすための金槌)やローラーで地金の分子を締めると、さらに良い鋳造地金を作る事ができます。
鋳造用地金の再生作業の流れ
一度鋳造に使用した地金を再使用する場合、次の工程で亜硫酸ガスや酸素などのガスの飛び込みを防止します。
step
1超音波洗浄
リターン材に付着した埋没材を完全に除去するために、スプルーや押し湯を超音波洗浄します。
石膏系埋没材は高温(一般的に800℃以上)に晒されると熱分解を始め、気化してガス鋳巣の原因となります。
step
2乾燥させる
水洗いした後、付着した水分をエアーガンやドライヤーで乾燥させます。
step
3地金をルツボに入れる
リターン材を切り分け、ヴァージンメタルと一緒にルツボに入れます。粉地金の再使用は避けます。
リターン材が1に対して、未使用地金(ヴァージン地金)1の割合が推奨されていますが、最高でも1/3以上を足して次の鋳造地金として使用します。
step
4溶解する
溶解を開始します。完全溶解した後、さらに温度を上げながら黒鉛棒などで攪拌します。黒鉛棒での攪拌も脱ガス効果があります。
step
5ホウ砂を入れる
地金が溶解したら、ホウ砂を入れます。ホウ砂は、ガラス化し溶湯表面に膜として留まることにより、地金の溶解に際して取り込まれるガスの混入を防ぎます。
地金をルツボにセットした時点で、予めホウ砂を入れておいても有効です。
step
6ホウ砂を取り除く
溶解地金の表面に浮くのろと一緒にガラス化したホウ砂を黒鉛棒で取り除きます。
step
7黒鉛棒についたホウ砂を取る
取り除いたホウ砂は、その都度黒鉛棒から取り除きます。ホウ砂は高温でガラス化して粘性を持ち、冷えると固まります。
step
86と7を繰り返す
溶湯表面が鏡面になるまで、⑥と⑦を繰り返し行います。
step
9脱酸材を入れる
溶解地金の界面がきれいになったら、適切な量の脱酸材を添加し、良く攪拌します。金・銀合金用の脱酸には『燐銅(リンドウ)』と『亜鉛』が効果的です。
step
10明け型にあける
地金をアケ型に注ぎます。金属のアケ型を使用する場合には、予め熱し、油を敷いておきます。
step
11地金を取り出す
金属が凝固したら、アケ型から地金を取り出します。水で冷やしてから酸洗いを行い、表面の酸化膜を取り除きます。
step
12切り分ける
酸洗い後は、水で充分酸を洗い流し、ルツボに入る程度の大きさに切り分けます。
酸洗い後に延槌(金属を延ばすための金槌)やローラーで地金の分子を締めると、さらに良い鋳造地金を作ることができます。
step
13完了
鋳造用地金のリサイクルの完了。次回の鋳造地金が算出されている場合には、各鋳型に合わせて計量しておきます。