鋳造用語集

ミクロ偏析(みくろへんせき)
Micro Segregation

金属学用語。
偏析には、大きく分けてミクロ偏析とマクロ偏析の2種類に分類される
ミクロ偏析とは、結晶レベルの局所的な成分のバラつきを指す。

凝固が始まった結晶(デンドライトと呼ばれる木の枝のような濃縮される現象。
この現象は肉眼では見えず、顕微鏡レベルで観察されるような非常に小さい範囲(数マイクロメートルから数百マイクロメートル)で起こる偏析。

ミクロ偏析は、急速な冷却は溶質原子を固相中に閉じ込め、微細なスケールでの偏析を促進する傾向がある。

ミクロ偏析のプロセス
1)合金が冷えて固まり始めると、まず凝固点(凝固開始の温度)が高い成分が濃い固体の結晶ができる。
2)この時点で液体、つまり固まっていない部分には、凝固点が低い成分が濃縮される。
3)この濃縮された液体が、最後に結晶の隙間や粒界で固まるため、結晶の内部とその外側で成分の濃度に違いが発生する。

例えるなら、「一本の木の枝をよく観察すると、幹から伸びる太い枝とその先端の細い部分で、気の密度が少し違う」という感じである。

ミクロ偏析が見られる合金
一般的には、以下の特徴を持つ合金で偏析が発生しやすい。
■ 凝固範囲が広い合金
固相線と液相線の温度差が大きい合金ほど、凝固中に溶質原子が移動する時間が長く、偏析が顕著になる。
■ 分配係数(k)が1から大きく異なる合金
分配係数k=CS/CL(CS: 固相の溶質濃度、CL: 液相の溶質濃度)が1より小さい場合、溶質は液相に濃縮されやすく、偏析を引き起こす。逆に1より大きい場合も偏析は起こるが、液相に濃縮される場合がより一般的。
■ 凝固速度が速い場合(ミクロ偏析)または遅い場合(マクロ偏析)
急速な冷却は溶質原子を固相中に閉じ込め、微細なスケールでの偏析(ミクロ偏析)を促進する。

実際の合金とその組み合わせ(一例)
アルミニウム合金 (Al-Cu, Al-Mg-Siなど)
Al-Cu合金: 銅(Cu)の分配係数が1より小さいため、凝固の際にデンドライトの腕の間に銅が濃縮されやすい。
Al-Mg-Si合金 (例: AA6082): マグネシウム(Mg)とシリコン(Si)がデンドライトの腕の境界や粒界に偏析する傾向がある。特に鉄(Fe)を含む金属間化合物が粒界に形成されることがある。
■ 鋼 (Fe-C, Fe-Mn, Fe-Siなど):
Fe-C合金: 炭素(C)は固相への溶解度が低いため、凝固の際にデンドライト間に濃縮され、炭化物として析出することがある。
高強度鋼 (例: AerMet100): クロム(Cr)、モリブデン(Mo)などの合金元素がミクロ偏析を起こし、その後の熱処理特性に影響を与える。
■ ニッケル基超合金 (Ni-Cr-Al-Tiなど):
クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)などの合金元素がデンドライト間に偏析し、その後の機械的特性や耐食性に影響を与える。
■ チタン合金 (Ti-Alなど):
TiAl基合金: アルミニウム(Al)が凝固中に偏析し、微細構造の不均一性を引き起こす。
■ 歯科用合金 (金-銀-パラジウム-銅など)
歯科用合金は、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)といった貴金属と、銅(Cu)、インジウム(In)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)などの卑金属を組み合わせて作られる。
これらの合金では、鋳造後の凝固過程で、組成が均一にならず、部分的に濃度の異なる相が形成されることがある。
例えば、卑金属を主体とした相と貴金属を主体とした相がミクロ的に接合した状態になることがある。
このミクロ偏析によって、相間で電位差が生じ、卑金属を主体とした相が陽極となって腐食されやすくなる(ガルバニック腐食)という問題が発生することがある。特に、銅や銀などがデンドライト間に濃縮される傾向が見られる。
このような偏析は、熱処理(均一化処理)によってある程度解消し、組織を均一化することで腐食を防ぐことが可能。
■ Ni基超合金(貴金属元素を添加した場合)
ニッケル(Ni)を主成分とする超合金に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などの貴金属元素を少量添加する場合、これらの貴金属元素が凝固時に特定の場所に偏析することがある。これは、貴金属元素がNiとの間で異なる固溶度や分配係数を持つために発生する。
例えば、溶接時の凝固では、合金元素が液相または固相のいずれかに偏析し、局所的な組成差を引き起こすことがある。

 

 

 

 

 

 

鋳造用語 索引

© 2025 吉田キャスト工業株式会社