テクネチウム
Technetium
1937年、イタリアの物理学者エミリオ・セグレ(Emilio Segrè)とカルロ・ペリエ(Carlo Perrier)は、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校のサイクロトロンでモリブデンに重陽子を照射した試料を分析する過程で、新元素を発見した。これがテクネチウムであり、人類が初めて人工的に作り出した元素として科学史に名を残している。
実は、メンデレーエフは周期表を作成した際、マンガンの下に未知の元素が存在することを予測し、「エカマンガン」と呼んでいた。テクネチウムは、その予言どおりの位置に発見され、周期表の正しさを改めて証明する元素となった。
元素名(Technetium)は、ギリシャ語の「technetos(人工の・人の手によって作られた)」に由来している。その名のとおり、「人工的に作られた最初の元素」であることを象徴している。
テクネチウムは、第5周期・第7族に属する遷移金属であり、銀灰色の放射性金属である。電子配置は [Kr] 4d⁵5s²、価電子数は7個で、通常は+7価をはじめ、+4価や+5価などさまざまな酸化状態を示す。化学的性質はレニウムやマンガンに似ているが、すべての同位体が放射性であり、安定同位体を持たないことが最大の特徴である。
天然では、ウラン238の自発核分裂によって極微量生成されるため、ウラン鉱石中からわずかに検出されることがある。しかし、その存在量は極めて少なく、工業的に利用されるテクネチウムのほとんどは、原子炉内で生成される核分裂生成物から回収される。
テクネチウムの最大の用途は、放射性医薬品である。特にテクネチウム99m(Tc-99m)は、適度な半減期(約6時間)とγ線のみを放出するという優れた特性を持つため、心臓、脳、骨、腎臓、肝臓などの核医学検査に世界中で利用されている。現在、世界で行われる核医学検査の約80%はTc-99mを利用しているといわれており、「医療を支える放射性元素」として極めて重要な存在となっている。また、腐食防止剤や研究用トレーサーとして利用されることもある。
| 元 素 記 号 | Tc |
| 陽 子 数 | 43 |
| 価 電 子 数 | 7 |
| 原 子 量 | |
| 融 点 | 2157 |
| 沸 点 | 4265 |
| 密 度 | 11.5 |
| 存 在 度 | 地球 天然では極微量(ウラン鉱石中に痕跡程度) 宇宙 極めて微量 |
| 代表的な製品 | Tc-99m放射性医薬品、核医学診断薬、骨シンチグラフィ、心筋シンチグラフィ、研究用トレーサー、腐食防止剤 |
テクネチウムは、「世界で最も多くの人の命を救っている放射性元素」ともいわれています。
放射性元素というと危険なイメージがありますが、テクネチウム99m(Tc-99m)は半減期が約6時間と短く、体内で必要な検査を終えると短時間で放射能が減少するという特徴があります。そのため、患者への負担を抑えながら体内の臓器や血流の状態を詳しく調べることができます。
現在では、世界で年間約4,000万件以上の核医学検査に利用されているとされ、がん、心疾患、骨疾患などの早期発見に大きく貢献しています。
「人工的に作られた最初の元素」であるテクネチウムは、発見当初は純粋な学術研究の成果でした。しかし現在では、最も実用化され、人々の健康を支えている人工元素へと発展した、非常に珍しい存在なのです。
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