パーライト変態(ぱーらいとへんたい)
Pearlite Transformation
鋼の熱処理プロセスで、高温のオーステナイトが冷却される際に、フェライトとセメンタイトが層状に形成される現象。つまり、直接変態と拡散変態の中間特性を持つ変態であり共析変態の代表的な例である。
この変態は、原子が移動する拡散を伴うため、比較的ゆっくりとした冷却速度で発生する。
パーライト組織は、軟らかいフェライトと硬いセメンタイトが組み合わさることで、フェライト単体よりも高い強度を持つ。
パーライト変態の種類
■ 粗大パーライト(Coarse Pearlite)
炉令や放冷など、比較的ゆっくりとした冷却速度で形成されるパーライト変態の一種。
フェライトとセメンタイトの層状構造が粗く、層間隔が広いのが特徴。
粗い組織であるため、硬度と強度は低いが、靭性(ねばり強さ)は高くなる。
■ 微細パーライト(Fine Pearlite)
550℃あたりからの油冷など、比較的速い冷却速度で形成されるパーライト変態の一種。
フェライトとセメンタイトの層状構造が非常に細かく、層間隔が狭い。
微細な組織であるため、粗大パーライトよりも硬度と強度が高いが、靭性は低くなる。
変態のプロセス
■ 加 熱
鋼を特定の高温(通常は912℃以上)に加熱すると、結晶構造がオーステナイトと呼ばれる面心立方格子(FCC)に変化する(オーステナイト化)。
この状態では、炭素原子が格子内に均一に溶解している。
■ 徐 冷
オーステナイト状態(約727℃)から、パーライト変態が起こる温度帯(約727°Cから550°C)までゆっくりと冷却する。
■ 核生成
オーステナイトの結晶粒界で、炭素をほとんど含まないフェライトの核が生成さる。
■ 炭素の拡散
フェライトは炭素を固溶できないため、フェライトの核から押し出された炭素原子が、隣接するオーステナイト相へと拡散する。
■ 層状組織の形成
炭素が濃縮されたオーステナイトが、今度は炭化鉄であるセメンタイトに変態する。
このフェライトとセメンタイトの形成が同時に進行し、交互に重なり合う層状の「ラメラ構造」を形成する。
ベイナイト変態が利用される理由
パーライト変態を制御することで、以下の利点が得られる。
■ 良好な加工性
軟らかいフェライト相のおかげで、パーライト組織を持つ鋼は切削加工や塑性加工が比較的容易となる。
■ 適切な強度
硬いセメンタイトが層状に分散しているため、軟らかいフェライト単体よりも高い強度が得られる。
このバランスが、多くの一般的な構造用鋼材に適した機械的特性を生み出している。
■ 優れたコスト効率
パーライト変態は、鋼を炉内でゆっくりと冷却するだけで発生するため、マルテンサイト変態に必要な急冷やその後の焼き戻しといった複雑な熱処理プロセスが不要な場合がある。
これにより、製造コストを抑えることが期待できる。
これらの理由により、パーライト組織は、建築材料、線材、レール、パイプなど、高い強度と同時に優れた加工性が求められる幅広い用途で利用されている。
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