炭 素(たんそ)
Carbon
炭素は、原子番号6、元素記号Cで表される非金属元素であり、周期表では第2周期・第14族(炭素族)に属する。生命を構成する最も重要な元素の一つであると同時に、鉄鋼、鋳鉄、燃料、化学製品、電子材料など、現代社会を支える極めて重要な元素である。
炭素は古代から木炭や煤、黒鉛などの形で人類に利用されてきたため、特定の人物によって「発見された元素」ではない。18世紀後半になると、フランスの化学者アントワーヌ・ラヴォアジエらの研究によって、ダイヤモンドや木炭を燃焼させると二酸化炭素が生じることが明らかとなり、これらが同じ元素で構成されていることが認識されるようになった。
元素名Carbonは、ラテン語で木炭を意味する「carbo」に由来する。日本語の「炭素」は文字通り「炭を構成する元素」という意味を持つ。
炭素は自然界に広く存在している。単体では黒鉛やダイヤモンドとして産出し、化合物としては二酸化炭素、炭酸塩、石炭、石油、天然ガスなどに含まれる。また、植物や動物をはじめとするすべての生物の主要な構成元素でもある。
炭素の電子配置は1s² 2s² 2p²であり、最外殻に4個の価電子を持つ。この4個の電子によって他の炭素原子や水素、酸素、窒素など多くの元素と安定した共有結合を形成することができる。
特に炭素原子には、炭素同士で長い鎖、枝分かれした構造、環状構造などを形成する能力がある。この性質によって極めて多種類の化合物が存在し、有機化学の基礎となっている。
炭素は代表的な同素体を持つ元素でもある。
ダイヤモンドでは、一つの炭素原子が周囲の4個の炭素原子と強固な三次元構造を形成しており、極めて高い硬度を示す。一方、黒鉛では炭素原子が六角形の網目状に結合した層状構造を形成している。層と層の間の結合が弱いため滑りやすく、潤滑性を示すほか、電気を比較的よく通す。
さらに、20世紀後半以降にはフラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの新しい炭素材料が発見・研究され、電子材料、複合材料、エネルギー分野などへの応用が進められている。
| 元 素 記 号 | C |
| 陽 子 数 | 6 |
| 価 電 子 数 | 4 |
| 原 子 量 | 12.0107 |
| 融 点 | 常圧では液体にならず昇華するため、通常の融点を示さない / ダイヤモンドの場合3550℃) |
| 沸 点 | 4827 |
| 密 度 | 約2.2(黒鉛)約3.513(ダイヤモンドの場合) |
| 存 在 度 | 地球 約200 ppm 宇宙 2,400 ppm(質量比・概算) |
| 代表的な製品 | 鉛筆・鉄鋼・鋳鉄・黒鉛電極・活性炭・ダイヤモンド工具・カーボンブラック・炭素繊維・グラフェン・電池材料など |
金属材料と炭素
金属材料、特に鉄鋼において炭素は極めて重要な元素である。
純鉄は比較的軟らかい金属であるが、鉄に炭素を加えることで組織や機械的性質を大きく変化させることができる。炭素量や熱処理条件によってフェライト、パーライト、セメンタイト、マルテンサイトなどさまざまな組織が形成され、硬さ、強度、靱性、耐摩耗性などが変化する。
このため炭素は、鉄鋼材料の性質を決定する最も基本的な合金元素の一つである。
一般に炭素量が増加すると鋼の硬さや強度は高くなる一方、延性や溶接性などは低下する傾向を示す。そのため用途に応じて炭素量を適切に制御する必要がある。
さらに炭素量が増加した鋳鉄では、炭素が黒鉛またはセメンタイトなどとして存在する。黒鉛の形状や分布によって、ねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄など異なる特性を持つ材料となる。
また、鋳鉄では炭素量が高いことによって一般的な鋼より融点が低下し、溶湯の流動性も良好になるため、複雑な形状を鋳造しやすいという特徴を持つ。
炭素は鉄鋼だけでなく、金属の製錬にも重要である。鉄鉱石から鉄を製造する高炉では、コークスが燃料として働くと同時に、酸化鉄から酸素を取り除くための還元剤として重要な役割を果たしている。
生命と炭素
炭素は生命を構成する基本元素である。
タンパク質、脂質、糖質、DNA、RNAなど、生物を構成する主要な有機化合物はすべて炭素を骨格としている。炭素原子が多様な結合構造を形成できることが、複雑な生命分子をつくることを可能にしている。
大気中の二酸化炭素は植物の光合成によって取り込まれ、有機物へ変換される。その炭素が食物連鎖を通じて動物などへ移動し、呼吸や分解によって再び二酸化炭素として大気へ戻る。この循環を炭素循環という。
一方、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を大量に燃焼させることで、大気中の二酸化炭素濃度が増加しており、地球温暖化との関係から炭素は現代の環境問題においても重要な元素となっている。
ダイヤモンドを燃やした科学者たち
現在では、ダイヤモンドも黒鉛も同じ炭素(C)からできていることはよく知られています。
しかし、見た目も性質もまったく違うこの二つが、同じ元素からできているということは、昔の人々にとって簡単には想像できないことでした。
黒鉛は黒く、柔らかく、紙に文字を書くことができます。一方、ダイヤモンドは透明で非常に硬く、美しい光沢を持っています。
この謎を確かめるため、17~18世紀の科学者たちは、なんとダイヤモンドを燃やす実験を行いました。
強い光や熱を加えるとダイヤモンドが消えてしまうことが分かり、さらに1796年、イギリスの化学者スミッソン・テナント(Smithson Tennant)は、ダイヤモンドを燃焼させると二酸化炭素が生じることを調べ、ダイヤモンドが炭素からできていることを明らかにしました。
つまり、宝石のダイヤモンドも、鉛筆に使われる黒鉛も、構成している元素は同じ炭素なのです。
では、なぜこれほど性質が違うのでしょうか?
その答えは、炭素原子の「並び方と結合の仕方」にあります。
ダイヤモンドでは、一つの炭素原子が周囲の4個の炭素原子と強く結合し、三次元的な網目構造を形成しています。そのため非常に硬い物質になります。
一方、黒鉛では炭素原子が六角形の網目をつくって平面状に並び、それが何層にも重なっています。層と層の間は比較的滑りやすいため、黒鉛は柔らかく、潤滑材などにも利用できます。
「何の元素でできているか」だけでは物質の性質は決まりません。同じ原子でも、どのように並び、どのように結合しているかによって性質は大きく変わります。
同じ炭素100%であっても、原子の並び方が変われば、一方は世界有数の硬い材料となり、もう一方は簡単に削れる柔らかい材料になります。炭素は、材料の性質を決めるうえで「組成」だけでなく「構造」がいかに重要であるかを教えてくれる、非常に分かりやすい元素なのです。
さらに面白いのは、この違いが金属材料にも通じることです。
鉄と炭素からなる材料でも、炭素量や冷却速度、熱処理によって内部組織が変われば、軟らかい材料にも非常に硬い材料にもなります。
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