フラックス
Flux
溶融金属(溶湯)の表面に加える粉末または粒状の物質。
その主な役割は以下の通りとなる。
■ 酸化物の除去(除さい)
溶湯表面に生成した酸化物(ノロ、ドロスなど)を溶融・吸収し、溶湯から分離しやすくする(清浄作用)。
■ 溶湯の保護
溶湯表面をフラックスの層で覆い、外部からの酸素との接触を遮断して酸化を防止する。
■ 脱ガス
溶湯中に溶け込んでいる水素などのガスを除去する。
■ その他
合金の特性を調整する(例: アルミニウム合金の改良処理、結晶粒の微細化)。
フラックスは、通常、溶融金属やロウ材よりも低い融点を持ち、非金属介在物や酸化物と反応してスラグを形成し、これを取り除くことで健全な鋳物を得るために使用される。
主な合金とフラックスの作用
■ 銅合金
銅合金(黄銅、青銅、特殊銅合金など)用のフラックスは、合金成分と目的(脱酸、清浄など)に応じて成分が調整される。
| 対象となる合金 | フラックス成分 | フラックスの作用 |
| 黄銅(真ちゅう) | ホウ砂(Na2B4O7・10H2O)と、ホウ酸(H3BO3)塩化亜鉛 (ZnCl2) やフッ化カルシウム (CaF2) などを主成分とする塩化物。 | 亜鉛の酸化・蒸発の抑制、スラグ中の金属分低減。 |
| リン青銅 | 炭素質被覆材(弱還元性)、ホウ砂など。 | 溶解中の酸化防止(被覆)、リン系酸化物(ノロ)の除去。 |
| アルミ青銅 | Al酸化物と反応しやすい塩化カルシウムなどの塩化物。 | アルミニウム酸化物(Al2O3)の除去、水素系欠陥の防止。 |
| 高銅合金(活性金属入り) | 合金成分に対応した特殊なフッ素化合物や塩化物。 | マグネシウム(Mg)、チタニウム(Ti)、ジルコン(Zr)などの活性元素の酸化物捕捉。 |
■ アルミニウム合金
アルミニウム合金のフラックスは、主に塩化物(クロライド)とフッ化物(フルオライド)の混合塩が使用される。
| 対象となる合金 | フラックス成分 | フラックスの作用 |
| アルミニウム | 塩化ナトリウム(NaCl) | 溶融基剤 主に塩化カリウム (KCl) と配合され、溶湯の温度に合わせて融点を調整する(一般に約50:50の割合)。 |
| 塩化カリウム(KCl) | 溶融基剤 塩化ナトリウム(NaCl)と組み合わせることで共晶点(融点が最も低い点)を作り、低温で溶けて溶湯を覆う層を形成する。 | |
| フッ化アルミニウム (AlF) | 清浄作用(酸化物除去)の有効成分 溶湯表面の酸化アルミニウム(Al2O3)と反応し、スラグとして捕捉する。 | |
| 氷晶石 (Na3AlF6) | 清浄作用 フッ素を供給し、酸化物の除去を助ける。 | |
| ケイフッ化ナトリウム(Na2SiF6) | 改良処理作用 Al-Si合金の共晶シリコンを微細化するナトリウム(Na)源を供給する。 (※金属Na自体を主成分とすることもある。) |
■ 金・銀合金
| 対象となる合金 | フラックス成分 | フラックスの作用 |
| 金合金 | ホウ砂(Na2B4O7・10H2O)55%とホウ酸(B(OH)3)45%。 | 亜鉛の酸化・蒸発の抑制、 スラグ中の金属分低減。 金属の酸化軽減、外部からのガスの侵入の防止。 |
| 銀合金 | ホウ砂(Na2B4O7・10H2O)55%とホウ酸(B(OH)3)45%。 | 亜鉛の酸化・蒸発の抑制、 スラグ中の金属分低減。 ホウ素成分に銀に対する脱酸効果がある。 金属の酸化軽減、外部からのガスの侵入の防止。 |
鋳造用語 索引
