ジスプロシウム
Dysprosium
1886年、フランスの化学者ポール・エミール・ルコック・ド・ボアボードラン(Paul Émile Lecoq de Boisbaudran)は、ホルミウムを含む希土類酸化物を繰り返し分離・精製する過程で、新たな希土類元素を発見した。当時の希土類元素は化学的性質が極めてよく似ていたため、純粋なジスプロシウムを得るまでには30回以上もの分別結晶を繰り返したといわれている。このように、発見・分離が非常に困難であったことから、ランタノイド元素の中でも特に精製が難しい元素として知られるようになった。
元素名(Dysprosium)は、ギリシャ語の「dysprositos(得ることが難しい・近づき難い)」に由来している。その名の通り、他の希土類元素から分離・精製することが極めて難しかったことから命名された。現在でも高純度のジスプロシウムを得るには高度な分離技術が必要であり、その名前は元素の性質をよく表している。
ジスプロシウムは、第6周期・ランタノイド系列に属する希土類元素(レアアース)であり、銀白色で比較的柔らかい金属である。電子配置は [Xe] 4f¹⁰6s²、価電子数は3個で、通常は+3価の酸化状態を示す。空気中では比較的安定しているが、高温では酸化しやすい。ランタノイドの中でも特に磁気異方性が大きく、磁石の耐熱性能を向上させる元素として重要な役割を果たしている。
天然では主にゼノタイム、モナザイト、イオン吸着型粘土鉱床などのレアアース鉱石中に他の希土類元素とともに含まれている。特に重希土類元素として産出量が少なく、高純度の分離にも高度な技術を必要とするため、レアアースの中でも資源価値の高い元素となっている。
ジスプロシウムの最大の用途は、ネオジム磁石への添加元素である。ネオジム磁石は非常に強力な磁力を持つ一方、高温では磁力が低下しやすいという弱点がある。ジスプロシウムを数%添加すると、耐熱性が大きく向上し、高温環境でも強い磁力を維持できるようになる。そのため、電気自動車(EV)の駆動モーター、風力発電機、産業用ロボット、航空宇宙機器など、高温で使用される永久磁石には欠かせない元素となっている。また、制御棒や中性子吸収材、磁気記録材料などにも利用されている。
| 元 素 記 号 | Sm |
| 陽 子 数 | 62 |
| 価 電 子 数 | 3 |
| 原 子 量 | |
| 融 点 | 1072 |
| 沸 点 | 1797 |
| 密 度 | 7.52 |
| 存 在 度 | 地球 約7.1 ppm 宇宙 約0.0005 ppm |
| 代表的な製品 | サマリウム・コバルト磁石(Sm-Co磁石)、航空宇宙機器、人工衛星、高性能モーター、原子炉制御材、放射性医薬品(Sm-153)、レーザー材料、特殊ガラス |
ジスプロシウムは、「電気自動車の性能を左右するレアアース」とも呼ばれています。
電気自動車(EV)の駆動モーターは、走行中に100℃を超える高温になることがあります。ネオジム磁石だけでは、この温度域で磁力が低下してしまうため、高性能なEVモーターにはジスプロシウムが数%添加されています。
この数%の添加によって、磁石は高温でも安定した性能を維持でき、モーターの出力や耐久性が大きく向上します。そのため、ジスプロシウムは添加量こそ少ないものの、EVや風力発電機といった脱炭素社会を支える製品には欠かせない存在となっています。
近年では世界的な需要の増加により、「最も重要な重希土類元素の一つ」として各国が資源確保を進めており、代替材料の研究も活発に行われています。
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