規則 - 不規則変態(きそく-ふきそくへんたい)
Ordered - Disordered Transformation
合金の原子の並び方が温度によって変わる現象。
特定の温度を境に、原子が規則正しく並んだ状態(規則相)から、ばらばらに並んだ状態(不規則相)へと変化する。
具体的な仕組み
多くの合金は、高温では原子が格子点にランダムに配置された不規則な状態(固溶体)で存在する。
これは、原子が活発に動き回るため、規則正しい配列を保つことが難しいことが理由である。
しかし、温度が下がると、原子の動きが鈍くなり、特定の種類の原子が特定の格子点に収まりやすくなる。
その結果、ある臨界温度以下になると、原子が規則的に配列した規則相へと変化する。
この変化を「規則-不規則変態」と呼ぶ。
規則―不規則変態と残留応力のメカニズム
規則―不規則変態は、合金などの結晶構造において、特定の原子の配列が規則的な状態(規則相)と、ランダムな状態(不規則相)の間で変化する現象です。この変態が残留応力を発生させる主要因は以下の通りとなる。
メカニズム | 詳 細 |
Step 1 格子定数(体積)の変化 | ■ 規則相と不規則相では、原子の配列が異なるため、格子定数(単位格子の大きさ)がわずかに変化する。 ■ 一般に、規則化が進むと格子定数がわずかに収縮したり、膨張したりすることがある(材料による)。 ■ この体積変化(相変態ひずみ)が、材料の全体にわたって一様に起こらないことが問題となる。 |
Step 2 不均一な変態と拘束 | ■ 変態が起こる際、材料の場所によって変態の進行度や完了時期が異なる。 特に、熱処理(加熱・冷却)を伴う場合、表面と内部の温度差により変態が不均一になりやすくなる。 ■ 例えば、ある領域が先に規則相に変態して収縮(または膨張)したとしても、その周囲のまだ変態していない領域(母相)や、既に変態を終えた領域から拘束を受ける。 ■ この 「自由に体積変化したい部分」 と 「周囲からの拘束」 の間で力が生じ、それが残留応力として定着する。 |
残留する応力の種類(マクロ・ミクロ応力)
規則―不規則変態により残留する応力は、主に以下の2種類に分類される。
応力の種類 | 作用する長さスケール | 変態との関係 |
■ I 型残留応力 (マクロ応力) | 部材全体、またはその大部分 | 主に不均一な冷却速度や全体的な変態完了時期の差により、部材の表面と内部で生じる応力の釣り合い。 |
■ II 型残留応力 (ミクロ応力) | 結晶粒(グレイン)のスケール | 個々の結晶粒内で変態が不均一に生じることや、変態した相と変態していない相の間の格子定数差(体積差)により生じる応力の釣り合い。 |
規則―不規則変態のような相変態に伴う残留応力は、特にII型(ミクロ応力)として現れやすく、結晶粒のスケールで引張応力と圧縮応力が複雑に混在して残留する。
これは、材料の疲労強度や応力腐食割れに影響を与える重要な要素となる。
影響と例
この変態は、合金の様々な性質に大きな影響を与える。
■ 物理的・機械的性質の変化
規則相は原子の並びが密であるため、硬く、もろい性質を示すことが多くみられる。
一方、不規則相はより柔らかく、展延性に富む。
■ 電気的・磁気的性質の変化
原子配列が変わることで、電気抵抗や磁気特性も変化する。
■ 身近な例
金-銅合金(AuCu3)は、高温では金原子と銅原子がランダムに並んでいるが、低温になると金(Au)原子が隅に、銅(Cu)原子が面心に規則的に並び、結晶構造が変化する。
■ 機械的性質
格子定数は原子間の結合距離と関係しており、硬さや弾性率などの機械的性質に影響を与える。
この変化を利用して、特定の性質を持つ材料が作られています。
■ 電子・光学特性
半導体や発光ダイオード(LED)などでは、格子定数が電子のバンドギャップや発光波長に影響を与えるため、デバイス設計に不可欠な情報となる。
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