プルトアクチニウム
Protactinium
1913年、ポーランドの化学者カジミェシュ・ファヤンスとドイツの物理学者オズワルド・ゲーリングは、ウラン238の崩壊系列中に存在する半減期約1.2分の短寿命同位体「プロトアクチニウム234(当時はブレビウム)」を発見した。その後、1917年から1918年にかけて、ドイツのオットー・ハーンとリーゼ・マイトナー、さらにイギリスのフレデリック・ソディらが、長寿命同位体であるプロトアクチニウム231を独立して発見し、新元素として確立された。
プロトアクチニウム(Protactinium)という名称は、ギリシャ語の「Proto(最初の・親)」と「Actinium(アクチニウム)」を組み合わせたもので、「アクチニウムの親となる元素」を意味している。これは、プロトアクチニウム231がα崩壊してアクチニウム227を生成することに由来している。
プロトアクチニウムは銀白色の放射性金属で、空気中では容易に酸化する。化学的性質はトリウムやウラニウムに近く、通常は+5価が最も安定な酸化状態であるが、+4価や+3価を示す場合もある。
天然ではウラン鉱石中に極微量存在し、そのほとんどはウラン235の崩壊系列で生成されるプロトアクチニウム231である。天然中の存在量は極めて少なく、1トンのウラン鉱石から得られる量は数百ミリグラム程度に過ぎない。
工業用途はほとんど存在しないが、核化学やアクチノイド元素の研究において重要な元素である。また、海洋堆積物中のプロトアクチニウム231とトリウム230の比を利用した年代測定や、古海洋循環の解析にも利用されている。
プロトアクチニウムは強い放射能と高い放射線毒性を有し、さらに化学毒性も持つため、取り扱いには高度な放射線管理が必要である。その希少性から現在でも研究用途以外で利用されることはほとんどなく、最も高価な天然元素の一つとして知られている。
現在、プロトアクチニウムは工業材料として利用されることはほぼないものの、核化学、放射化学、年代測定およびアクチノイド元素の基礎研究を支える重要な元素となっている。
| 元 素 記 号 | Pa |
| 陽 子 数 | 91 |
| 価 電 子 数 | 5 |
| 原 子 量 | 231.03588 |
| 融 点 | 約1,572 |
| 沸 点 | 約4,000 |
| 密 度 | 15.37 |
| 存 在 度 | 地球(地殻)約0.0000001 ppm(約0.1 ppb)/宇宙 ほぼ0(長寿命同位体は存在するが極めて希少) |
| 代表的な製品 | 核化学研究、アクチノイド化学、ウラン系列の研究、海洋年代測定(Pa-231/Th-230法) |
「60トンからわずか125グラム!? 金より高価な希少元素」
プロトアクチニウムは、天然に存在する元素の中でも、入手が極めて難しく、高価な元素の一つとして知られています。
自然界では主にウランの放射性崩壊によって生成されますが、その存在量はごくわずかです。しかも、ウランやほかの放射性元素が混在する物質から分離し、高純度に精製するには、複雑な化学処理と厳重な放射線管理が必要となります。
その希少性を物語るのが、1961年に英国原子力公社(UKAEA)が行った大規模な回収事業です。ウラン精製工程で生じた約60トンもの残渣を処理し、ようやく得られた高純度プロトアクチニウムは、わずか約125グラムでした。しかも、その回収には当時の金額で約50万米ドルもの費用がかかったと報告されています。これは単純に換算すると、1グラムを得るために約4,000ドルを費やした計算になります。当時の金と比較しても非常に高額であり、プロトアクチニウムがいかに貴重な研究材料であったかがうかがえます。
現在でも一般的な商業用途はほとんどなく、主に放射化学や原子核科学などの研究に用いられています。
プロトアクチニウムは、元素の価値が単なる存在量だけでなく、それを取り出すために必要な技術と労力によっても大きく左右されることを示す、興味深い元素なのです。
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