V字偏析(ぶいじへんせき)
V-Segregation / V-shaped Segregation
インゴットや円筒状の鋳片(ビレット)の凝固過程で生じる一種の欠陥。
凝固が進行するにつれて、溶けている部分の組成が変化し、最終的にインゴットの中心軸に沿って、V字型または、逆V字型に偏析した不純物原子や合金成分が形成されることがある。
発生原因
V字偏析は、凝固が進行する中で発生する液相(溶けている金属)の移動と、それに伴う凝固収縮の補償が主な原因となって形成される。
| ステップ | 詳 細 |
| Step 1 凝固収縮による吸引 | ■ V字偏析の線状の組織は、局所的に組成が不均一であることを意味する。 ■ この不均一な部分は、材料の強度、靭性(ねばり強さ)、疲労強度などに悪影響を与え、応力が集中しやすい欠陥の起点となり、割れや破損を引き起こす原因となることがある。 |
| Step 2 固液混合状態の流動と空隙の発生 | ■ 偏析部分の化学組成が周囲と異なるため、融点や変態点(組織が変化する温度)が局所的に変化する。 ■ 圧延や鍛造などの熱間加工を行う際、この偏析部分が高温割れや欠陥の原因となる可能性が高くなる。 特に連続鋳造ビレット(円筒状の鋳片)の場合、V字偏析がその後の加工でバンド状の欠陥として残り、製品品質を大きく損なう。 |
| Step 3 溶質の薄い部分の凝固 | ■ 空隙が形成されると、周囲の溶質が濃い残液がその空隙に流れ込むが、V字偏析のパターンは、濃い残液が周囲に押し出された後に、溶質の薄い部分がその場で凝固した痕跡として現れることが多く見られる。 そのため、V字偏析は一般的に、インゴットの平均濃度よりも溶質元素の濃度が低い(負の偏析)部分として観察される傾向がある。 |
■ 簡単にまとめると
凝固収縮に伴う液体の動き(吸い上げ)により、デンドライトの間に周期的な空隙が生じ、その後の残液の挙動によって濃度が不均一な筋状の組織が中心軸に沿って残る現象。
冶金学的な影響
■ 機械的性質の低下
V字偏析の線状の組織は、局所的に組成が不均一であることを意味する。
この不均一な部分は、材料の強度、靭性(ねばり強さ)、疲労強度などに悪影響を与え、応力が集中しやすい欠陥の起点となり、割れや破損を引き起こす原因となることがある。
■ 熱間加工性の悪化
偏析部分の化学組成が周囲と異なるため、融点や変態点(組織が変化する温度)が局所的に変化する。
圧延や鍛造などの熱間加工を行う際、この偏析部分が高温割れや欠陥の原因となる可能性が高くなる。特に連続鋳造ビレットの場合、V字偏析がその後の加工でバンド状の欠陥として残り、製品品質を大きく損なうことになる。
■ 不均一な組織と性能
偏析部と非偏析部では、熱処理後のミクロ組織も異なるため、最終製品の性能が不均一になる。
これにより、耐食性や耐摩耗性など、さまざまな材料特性が局所的に低下する可能性が発生する。
■ 欠陥の検出の困難さ
V字偏析はインゴット内部の深い位置、特に中心軸付近に発生するため、非破壊検査(超音波探傷など)による検出が困難な場合がある。
そのため、最終製品になって初めて問題が発覚することもあり、品質保証上の課題となる。
これらの悪影響を避けるため、鋳造速度、温度勾配、注入方法、攪拌などの条件を適切に制御し、V字偏析の発生を抑制することが重要とされている。
V字偏析の回避対策
■ 鋳造温度
鋳造速度は、凝固プロセスの冷却速度と凝固時間に大きく影響する。
一般的には、鋳造速度を V字偏析の発生を抑制する方向に遅くするのが一般的な対応策となる。
-具体的な理由と方法-
● 凝固時間の延長
鋳造速度を遅くすると、インゴット全体の凝固時間が長くなる。
これにより、凝固末期に中心部で発生する偏析層が厚くなり、液相の急速な流動が抑制される可能性がある。
● デンドライトの成長
冷却速度が遅くなることで、デンドライト(樹枝状結晶)がより太く成長しやすくなる。
デンドライトが太くなると、デンドライト間の隙間が狭くなり、溶質濃度の濃い残液が上方へ流動する隙間が細くなるため、V字偏析の原因となる周期的な空隙の発生を抑える効果が期待できる。
● ただし過度の遅延は注意
鋳造速度を極端に遅くしすぎると、生産性が低下するだけでなく、インゴットの表面品質が悪化したり、別の種類の欠陥(例えば、大きな中心引け鋳巣(内引けや外引けなど)が発生しやすくなったりする場合もあるので注意が必要となる。
■ 温度勾配
温度勾配は、インゴットの凝固界面の形状と液相の動きに直接影響を与える。
基本的な対策として、凝固界面の温度勾配を大きくする、つまり方向性凝固を促進することで、V字偏析の抑制が図れる。
-具体的な理由と方法-
● 方向性凝固の促進
鋳型の下部や側面を強く冷却し、中心部へ向かって、または下から上へ向かって明確な温度勾配(大きなG/R比:温度勾配Gと凝固速度Rの比)を持たせることで、凝固界面が平面状または浅い湾曲(底が浅い)になる。
● 液相流動の抑制
凝固界面が安定し、固液共存域(マッシィゾーン)の幅が狭く制御されると、未凝固の液相の量が減り、凝固収縮による液相の上方への吸い上げ流動が抑制される傾向にある。
● 加温保温
鋳型の上部を断熱材で覆ったり、発熱性の保温材を使用したりして、上部を高温に保つことで、下部との温度差を明確にし、下から上への健全な方向性凝固を促す。
● 二次冷却の制御
連続鋳造においては、二次冷却の強度を適切に制御し、中心部の冷却速度を調整することが重要となる。
■ 注湯方法
注湯方法は、溶融金属の温度、流速、および鋳型内の初期流動に影響を与える。
基本的には、鋳型内の静けさを保ち、温度変化を穏やかにすることが重要となる。
-具体的な理由と方法-
● 緩やかな注入
溶融金属をできるだけ穏やかに、静かに鋳型へ注入することで、鋳型内の初期の乱れた流動(乱流)を避け、安定した凝固初期組織を形成させる。
● 湯面(溶融金属の表面)の変動抑制
注入速度や方法を調整し、湯面の激しい揺れや酸化膜の巻き込みを防ぐ。
● 溶鋼温度の管理
注入する溶鋼の過熱度(融点以上の温度差)を適切に管理し、必要以上に過熱度を上げないことが重要となる。
過熱度が高いと、凝固開始が遅れ、凝固時間が長くなりすぎることで液相の流動が不安定になる可能性がある。
V字偏析と逆V字偏析のちがい
| 特 徴 | V字偏析 | 逆V字偏析 |
| 形 状 | V字型(開口部が下向き)の組織が中心軸に沿って並ぶ。 | 逆V字型(開口部が上向き)の組織が中心軸に沿って並ぶ。 |
| 発生位置 | インゴットの中心軸(特に下部から上部にかけて)。 | インゴットの中心軸(特に上部付近)。 |
| 偏析の傾向 | 負の偏析(溶質元素の濃度が薄い部分が多い)。 | 正の偏析(溶質元素の濃度が濃い部分が多い)。 |
| 主なメカニズム | 凝固に伴う収縮により、デンドライトの隙間を通って残りの液体金属(溶質の濃い部分)が上方に吸い上げられる際に、その濃い部分が通過した痕跡(逆に溶質の薄い部分が通過・凝固した痕跡)として残る。 | 凝固収縮による体積減少を補うため、デンドライトの隙間を通って溶質の濃い残液が下方に流れ込むことで、その濃い残液が孤立した形で凝固して発生する。 |
鋳造用語 索引
