※ロストワックス鋳造のブロックモールド法(ソリッドモールド法)の解説です。
合金を鋳造するとき、凝固後に合金の成分や不純物の分布になぜ偏りが発生するのか?
この合金成分の偏りで、製品強度や耐食性、貴金属製品では鋳造品の場所により貴金属成分の偏りが発生したり、極端な場合には、表面の発色に斑が発生するようなさまざまな問題が発生します。
これは、まず、偏析のメカニズムを理解する必要があります。
偏析を語るうえで、分配係数は最も無視できない要素のひとつです。
金属凝固における分配係数とは
溶解している金属が凝固する際に、その中に混ざっている不純物や合金元素が、固まる部分とまだ液体の部分のどちらにどのくらい多く「分かれるか」を表す数値です。
平衡分配係数 (K0)
これは、理想的な状態(熱力学的平衡状態)で定義される分配係数です。
液相と固相が完全に平衡にある(ゆっくりと凝固が進み、成分が十分に拡散できる)と仮定した場合に、固相中の溶質濃度と液相中の溶質濃度の比で表されます。
簡単に言い換えれば、ゆっくりと理想的に固まった場合の不純物の分かれ方を表わしています。
k0=CS / CL
CS : 固相中の溶質濃度
CL : 溶相中の溶質濃度
金属の状態図を見ると、ある温度での液相線と固相線のそれぞれの濃度から、k0 の値を知ることができます。
■ k0 < 1 の場合 |
固まる部分(固相)よりも、まだ溶けている液体(液相)のほうに不純物や合金元素が多となる。 |
■ k0 > 1 の場合 |
液体よりも、固まる部分のほうに不純物や合金元素が多く「取り込まれる」ことを意味する。 |
■ k0 =1の場合 |
液体と固体の両方に同じ濃度で含まれることになります。これは純粋な金属か、共晶点のような特殊な組成で起こる。 |
実行分配係数(Keff )
実際の金属凝固では、非常にゆっくりと凝固を進めない限り、残念ながら平衡状態にはなりません。
凝固は比較的速く進むため、溶質(不純物など)が液体中で均一に混ざり合う時間がない場合や、固相中に溶質が拡散する時間がない場合があります。
このため、実際の凝固で観察される分配の割合を「実効分配係数」と呼びます。これは、凝固速度や液相の攪拌状態(溶けた金属がどれくらい動いているか)などの影響を受けます。
実効分配係数は、平衡分配係数 K0と1の間の値を取ることが多くなります。
凝固速度が速いほど、あるいは液相中の拡散が不十分なほど、k/effは1に近づく傾向があります。これは、溶質が十分に「追い出される」前に固まってしまうためです。
Keff をもう少し簡単にいうと・・・
K0は、理想的な時間をかけた凝固プロセスを表し、溶けた元素と不純物などの濃度が均一になるのに対し、Keffは、実際の製造工程などで、凝固時間を理想的な値より早く凝固させなければならない場合、つまり現実的な凝固プロセスの時間で凝固をさせると、理想的な条件で計算上表される不純物の濃度と異なる。この「見かけの分配係数」を表わしたものです。
偏析との関係
この配分係数の概念は、「偏析(Segregation)」という現象と密接に関わっています。
偏析とは、合金が固まるときに、溶けている成分(溶質元素)が、最初に固まる部分と後から固まる部分とで濃度が不均一になる現象を指します。
■ K0 < 1 の場合 (多くの不純物が該当) |
固まる部分には溶質が少なく、まだ液体の部分には溶質が多くなります。凝固が進むにつれて、液体の溶質濃度がどんどん高くなり、最後に固まる中心部分などに不純物が集中してしまう。これを「正常偏析」と呼びます。 例えば、鋳造品で外側はきれいに固まっても、中心部が不純物でいっぱいになる、といったことが起こる。 |
■ K0 > 1 の場合 |
固まる部分には溶質が多く、まだ液体の部分には溶質が少なくなる。凝固が進むにつれて、液体の溶質濃度がどんどん低くなり、最初に固まる部分に溶質が集中する。 |
偏析は、金属材料の機械的性質(強度、靭性など)や耐食性などに悪影響を及ぼすことがあるため、金属の製造プロセスでは、この偏析をいかに抑えるかが重要な課題となります。
CSとCL(状態図からの読み取り方)
CSとCLの求め方は、平衝状態図から読み取れます。
1. まず、合金が凝固している温度を決めます。
2. その温度から、平衝状態図の横軸(組成/合金の割合)に平衝な線を引きます。この線をタイライン(結び線)と呼びます。
3. タイラインが固相線(固体と液体の境界線)と交わる点の濃度がCSです。
4. タイラインが液相線(液体と固体の境界線)と交わる点の濃度がCLです。
ニッケル(Ni)と銅(Cu)の場合
Ni-50wt%と銅(Ni:Cu=5:5)の合金を例に取って説明します。
■ 1250℃でタイラインを引いたとします。
■ 固相線との交点を見ると、ニッケルの濃度が約62%です。これがCSです。
■ 液相線との交点を見ると、ニッケルの濃度が約44%です。これがCLです。
これにより、分配係数は、K0=62/44となり、求められる数値は1.41となります。
この値は、1より大きいので、ニッケルは固体の方に多く取り込まれやすいことが分かります。
つまり、この合金の場合、凝固が始まると、ニッケル濃度の高い固相が最初に形成され、最初に固まる部分(鋳型に近い部分や肉薄の部分など)のニッケル濃度が高くなり、製品の中心部や鋳型の上部など、最後に固まる部分にニッケルが少なくなる傾向があります。特に肉厚部などの機械的特性や耐食性を部分的に低下させる原因となります。
また、このように偏析を伴う合金では、液相のニッケルの比率が少なくなり、凝固収縮の際に引け鋳巣や割れの原因となるため、充分な押し湯と指向性凝固を考慮した湯道方案を検討する必要があります。
まとめ
まとめると、金属凝固における「配分係数」は、固まる瞬間に、元々溶けていた成分が「固まる側」と「まだ液体の側」のどちらにどれくらい多く分かれるか、という数字です。この数字が、最終的に金属製品の中で不純物などがどのように偏って分布するか(偏析)を予測するために非常に重要になります。
実効分配係数(じっこうぶんぱいけいすう)を、もっと簡単に!
前の説明で「平衡分配係数」は、すごくゆっくり、理想的に固まった場合の、不純物の分かれ方だという話をしました。
でも、実際の工場や現場で金属を固めるときは、そんなにゆっくり待っていられません。もっと速く固めますね?
しかし、そうなると、困ったことが起きます。
【たとえば、満員電車の中の不純物】
金属が液体から固まるとき、不純物(他の邪魔な成分)は『(自由に動きたいので)固まる方には行きたくないな〜、できれば自由が利く液体のほうに残りたいな〜』と考えていると想像してください。
(これが K0<1 の場合です。多くの不純物がそう思っています)
理想的な場合(平衡分配係数 K0)
金属がとてもゆっくり固まる場合、不純物は『よし、今のうちに液体のほうに逃げよう!』と、ゆっくりしっかり移動して、固まる部分からはほとんど逃げ出します。だから、固まったところはとてもきれいです。
実際の場合(有効分配係数 Keff)
金属がすごく速く固まる場合、不純物は『えっ!もう固まっちゃうの!?逃げ場がない!』と焦ります。
しかし、液体のほうに逃げようとしても、周りがすぐに固まってしまうので、逃げきれずに固まる部分に閉じ込められてしまうことがあります。
この「不純物が逃げきれずに、固まる部分に閉じ込められてしまう割合」を示すのが、実効分配係数なんです。
なので・・・
■ 固まるのが速いと・・・
不純物が逃げる時間がなく、固まる部分にたくさん閉じ込められるので、実効分配係数 k effは、理想的な k0よりも「1」に近づきます。(つまり、固まる部分と液体の部分で、不純物の濃度差があまりなくなってしまう、ということです)
■ 液体の金属がかき混ぜられていないと(攪拌が不十分だと)・・・:
不純物が固まる部分のすぐ近くにたまってしまって、そこから遠くへ逃げられないので、これまた固まる部分に閉じ込められやすくなります。これも k effが「1」に近づく原因になります。
つまり・・・
実効分配係数は、「実際に金属を固めたときに、不純物が固まる方にどれくらい巻き込まれてしまうか」を示す数字、と考えると分かりやすいと思います。これは、金属の品質を考える上で、とても大切な数字です。