鋳造用語集

ヒ 素 / 砒 素(ひそ)
Arsenic

ヒ素は、原子番号33の元素であり、周期表では第4周期・第15族に属する半金属(メタロイド)元素である。13世紀、ドイツの神学者・博物学者アルベルトゥス・マグヌス(Albertus Magnus)が、硫化ヒ素を石けん(油脂)とともに加熱し、金属状のヒ素を単離したとされている。元素名(Arsenic)は、ギリシャ語で黄色の硫化ヒ素鉱物を意味する「arsenikon(アルセニコン)」に由来し、その語源はさらにペルシャ語で「強いもの」を意味する言葉に遡ると考えられている。

ヒ素は天然では単体として存在することもあるが、多くは硫化鉱物や酸化鉱物として産出する。代表的な鉱物には雄黄(ゆうおう:Orpiment)、鶏冠石(けいかんせき:Realgar)、硫砒鉄鉱(Arsenopyrite)などがあり、などの鉱石にも副成分として含まれている。

電子配置は [Ar] 3d¹⁰ 4s² 4p³ で、価電子を5個持つ。半金属特有の性質を示し、金属光沢を持ちながらも硬くてもろく、電気伝導性は金属と非金属の中間である。また、酸化数は−3、+3、+5を示し、用途によってさまざまな化合物を形成する。

ヒ素は強い毒性を持つ元素として広く知られているが、一方で現代のエレクトロニクス産業では欠かせない材料でもある。特にガリウムヒ素(GaAs)は、電子の移動度がシリコンの数倍と非常に高く、高周波・高速動作に優れている。この特性を活かし、スマートフォンの高周波パワーアンプ、高速通信機器、GPS、人工衛星、レーザーダイオード、LEDなどに幅広く利用されている。

また、ヒ素は木材防腐剤や農薬として使用されていた歴史もあるが、その高い毒性から現在では多くの用途が規制されている。日本では毒物及び劇物取締法(毒劇法)により毒物に指定されており、製造、保管、譲渡、運搬、廃棄などについて厳格な管理が義務付けられている。

このようにヒ素は、「猛毒」と「最先端電子材料」という二つの異なる側面を持つ、非常に特徴的な元素である。

元   素   記   号 As
陽      子      数 33
価   電   子   数 5
原      子      量 74.9216
融                点 常圧では昇華するため、通常の融点を示さない(3.6 MPa以上で融解)
沸                点 約614℃(昇華点)
密                度 5.73 
存      在      度 地球  約1.8 ppm   宇宙 約0.0005 ppm(質量比)
代表的な製品 ガリウムヒ素半導体、高周波パワーアンプ、レーザーダイオード、LED、光通信デバイス、赤外線発光素子、半導体レーザー
-こぼれ話-
「毒殺の王」と呼ばれた元素がスマートフォンを支えている

ヒ素と聞くと、まず「毒」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

実際、ヒ素化合物は長い歴史の中で毒として知られてきました。特に三酸化二ヒ素(亜ヒ酸)は白色で、食べ物などに混ぜても気づかれにくく、かつては分析による検出も容易ではありませんでした。そのため、ヒ素化合物は毒殺に使用された歴史があり、「毒薬の王」と呼ばれることもありました。
こうした毒殺への恐怖と関連して語られるのが、王族や貴族が使用した銀食器です。
古くから「料理に毒が入っていると銀が変色する」と信じられ、毒殺を警戒する王侯貴族が銀製の食器を使用したという逸話が伝えられています。

ただし、銀がヒ素そのものに反応して確実に変色するわけではありません。銀は硫黄化合物と反応すると黒色の硫化銀を形成するため、食品や毒物に硫黄成分が含まれていた場合には変色する可能性があります。この現象が「銀食器は毒を見抜く」という伝承につながったと考えられています。
したがって、銀食器は現代の化学分析のような確実な「ヒ素検出器」ではありません。それでも、毒殺が現実的な脅威であった時代に、銀食器が「毒を知らせてくれるもの」と信じられていたという話は、ヒ素の歴史を象徴する興味深い逸話です。

ところが現代では、そのヒ素がまったく異なる分野で私たちの生活を支えています。
代表的なのが、ガリウムとヒ素からつくられるガリウムヒ素(GaAs)です。ガリウムヒ素は高周波・高速動作に適した化合物半導体であり、スマートフォンの通信回路、衛星通信、レーザーダイオード、LEDなどに利用されています。
かつて王侯貴族が毒殺を恐れた「ヒ素」が、現代では高速通信社会を支える重要な元素となっている。
毒の歴史と最先端技術。この大きな落差も、ヒ素という元素の面白さの一つです。

 

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