鋳造用語集

ヘリウム
Helium

1868年、フランスの天文学者ピエール・ジャンサン(Pierre Janssen)が皆既日食の観測中、太陽のスペクトルに未知の黄色い線を発見した。同じ年、イギリスの天文学者ノーマン・ロッキャー(Norman Lockyer)もこのスペクトル線を確認し、地球上ではまだ知られていない元素が太陽に存在すると考えた。

その後1895年、スコットランドの化学者ウィリアム・ラムゼー(William Ramsay)が、ウラン鉱物のクレーベ石を酸で処理して得られた気体を分析し、地球上にもヘリウムが存在することを確認した。

元素名Heliumは、ギリシャ語で「太陽」を意味するhelios(ヘリオス)に由来する。地球上で発見されるより先に太陽の光から存在が知られたという、非常に珍しい発見の歴史を持つ元素である。

ヘリウムは、第1周期・第18族に属する希ガス元素である。電子配置は1s²で、最外殻の電子殻が2個の電子で満たされているため非常に安定しており、通常の条件ではほとんど化学反応を起こさない。無色・無臭・無味の気体で、毒性や可燃性を持たない。

原子番号2で、水素に次いで軽い元素である。また沸点は約−268.9℃(4.2 K)と全元素の中で最も低く、極低温技術に不可欠な物質である。通常の大気圧では温度を下げても固体にならず、固体ヘリウムを得るには低温に加えて圧力を加える必要があるという特徴も持つ。

宇宙では水素に次いで豊富な元素であり、その多くは宇宙初期のビッグバン元素合成や恒星内部の核融合によって形成された。一方、地球では非常に希少である。ヘリウム原子は軽いため大気中に長期間とどまりにくく、最終的には宇宙空間へ失われていく。

現在工業的に利用されるヘリウムの多くは、地下の天然ガス田に蓄積したものから分離・精製されている。地下ではウラントリウムなどの放射性元素がα崩壊するとヘリウム原子核が生じ、電子を得てヘリウム原子となる。これが長い年月をかけて地下に蓄積したものである。

ヘリウムの代表的な用途は、MRIや超伝導磁石の極低温冷却、半導体製造、光ファイバー製造、溶接用シールドガス、気密試験、分析機器、ロケット関連、潜水用混合ガス、気球などである。化学的に安定していること、非常に軽いこと、沸点が極めて低いこと、原子が小さく微細な隙間を通過しやすいことなど、それぞれ異なる性質が利用されている。

 

元   素   記   号   He
陽      子      数   2 
価   電   子   数   0
原      子      量   4.002602
融                点   -272.2
沸                点   -268.934
密                度   0.1785
存      在      度 地球  -     宇宙  0.1785 
代表的な製品 - (N/A)

ヘリウムと鋳造

ヘリウムは一般的な鋳造合金に添加する元素ではないが、鋳造設備や溶解設備を支えるガスとして利用される場合がある。
特に重要なのがヘリウムリークテストである。

ヘリウムは原子が小さく、非常に微細な漏れを検出しやすいうえ、空気中の存在量が少ないため、微小なリークを高感度で検出するトレーサーガスとして適している。

真空溶解炉、真空鋳造機、真空チャンバー、配管、バルブ、熱交換器などでは、わずかな漏れでも到達真空度や雰囲気制御に影響を与える。そのため、真空設備の気密性を確認する方法としてヘリウムリークディテクターが使用される。

例えば真空容器を排気した状態で外側からヘリウムを吹き付け、装置内部へ侵入した微量のヘリウムを検出することで、目視では確認できないような微小な漏れ箇所を特定することができる。

また、ヘリウムは不活性ガスであるため、特殊な溶解・金属加工工程で保護ガスとして利用される場合もある。ただし、一般的な鋳造現場ではアルゴンの方が安価で密度も大きく、雰囲気保護に使いやすいため、ヘリウムを常用するケースは限定的である。

ヘリウムは鋳造そのものを変化させる元素というより、真空・雰囲気制御を必要とする高度な鋳造設備の健全性を確認するための元素として重要である。

-こぼれ話ー
太陽で発見され、宇宙で生まれ、地球では貴重な元素

普通、元素は地球上の鉱石や物質を分析することで発見されます。
ところがヘリウムは、地球上で確認されるより先に、太陽で発見された珍しい元素です。

1868年の皆既日食の際、太陽から届く光を分光器で調べたところ、それまで知られていた元素では説明できない黄色のスペクトル線が観測されました。そこで、太陽には地球上でまだ知られていない元素が存在するのではないかと考えられました。
元素名Heliumも、ギリシャ語で「太陽」を意味するhelios(ヘリオス)に由来しています。
それから約27年後の1895年、イギリスの化学者ウィリアム・ラムゼーが地球上の鉱物から得られた気体を分析し、そのスペクトルが太陽で発見されていたヘリウムと一致することを確認しました。
つまりヘリウムは、約1億5,000万km離れた太陽の光から、その存在が先に知られた元素なのです。

では、なぜ太陽にはヘリウムが大量に存在するのでしょうか?
その理由をたどっていくと、太陽よりもはるか昔、宇宙の誕生直後までさかのぼります。
現在の宇宙論では、宇宙が誕生して最初の数分間に「ビッグバン元素合成」が起こり、大量の水素とヘリウム、そしてごく少量のリチウムなどが作られたと考えられています。
つまりヘリウムは、約138億年前の宇宙誕生初期から存在する、宇宙で最も古い元素の一つなのです。
さらにその後に誕生した太陽をはじめとする恒星の内部では、水素原子核が核融合することによって、現在もヘリウムが作られ続けています。
そのため宇宙全体で見ると、ヘリウムは水素に次いで豊富な元素です。

ところが、これほど宇宙に豊富な元素でありながら、地球上では非常に貴重な資源です。
地球の大気中に含まれるヘリウムは、体積比でわずか約5.2 ppm、約0.00052%にすぎません。
しかもヘリウムは非常に軽いため、大気中へ放出されると徐々に上空へ移動し、最終的には宇宙空間へ失われていきます。

では、私たちが工業的に使用しているヘリウムはどこから来るのでしょうか?
実は地球内部では、ウランやトリウムなどの放射性元素が長い年月をかけてα崩壊しています。このとき放出されるα粒子はヘリウムの原子核であり、電子を得ることでヘリウム原子になります。
こうして地下で生成されたヘリウムの一部が天然ガス田などに閉じ込められ、長い年月をかけて蓄積します。現在利用されているヘリウムは、主としてこのような天然ガスから分離・回収されています。
しかし、一度大気中へ放出されたヘリウムを再び回収することは容易ではありません。
その一方で、ヘリウムはMRI(磁気共鳴画像診断装置)の超伝導磁石、半導体製造、極低温研究、宇宙開発、ヘリウムリーク検査など、現代社会の重要な技術に利用されています。特に極低温を必要とする用途では、その非常に低い沸点という性質から代替が難しい場合があります。
そのため、使用したヘリウムを回収して再利用する設備や、使用量そのものを減らす技術の開発も進められています。

宇宙では水素に次いで多いのに、地球では貴重。地球で見つかるより先に、太陽の光から発見された。そして、その起源をたどれば宇宙誕生直後にまで行き着く。

ヘリウムは、一つの元素の物語を追うだけで、元素の発見、恒星の核融合、ビッグバン、地球内部の放射性崩壊、そして現代の先端技術までをつなぐことができる元素なのです。

 

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