ダイレクトキャスティング/3Dプリンターモデルの金属鋳造

 

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金属3Dプリンター

3Dプリンターの一部の特許の期限が切れるなど環境の変化も大きく手伝い、新しい応用技術や販売価格の低下により様々な価格帯で販売されるようになり現在に至っている中で、現在の花形3Dプリンターと言えば、なんといっても粉末固着方式(PBF方式)で金属の粉体をレーザーで焼結させ造形を行う、いわゆる金属3Dプリンターでしょう。
金属粉体を焼結で焼き固めて造形する場合、MIM と同じく焼結時の収縮が大きいため、造形物のデータをかなり大きく作らなければなりません。
また、造形時のサポートを作らなければならない問題や製品化するときのサポートの除去の問題など、実際に造形できない形状もありますが、近年では収縮の少ない機種も登場しています。(一般的な金属3Dプリンターでは、造形プロセスと焼結プロセスを分け、炉により焼結させる。このプロセスで収縮率は20~30%と言われる、近年では一部の機種で二次焼結プロセスがなく収縮率で最大2~3%)。
しかしながら、全ての形状が金属3Dプリンターで造形が可能ではなく、また金属の種類や金属粉のコストから金属3Dプリンターでは困難な金属製品もまだ多くあることも事実です。

 

3Ⅾプリンターにたよらない造形モデルの金属化

既に宝飾業界や一部の歯科技工で実用化されている方法として、3Ⅾプリンター造形物をロストワックス鋳造技術と併用して3Ⅾデータを金属化する方法があります。

造形物に要求される精度の違いにより3Dプリンティングで使用される素材が変わります。ロストワックス鋳造技術を応用するため、基本的には熱により『燃える』または『溶ける』素材でなければなりません。

アクセサリーや宝飾品など、製品のデザインが緻密で一定以上の精度が求められる場合には、光造形 (SLA方式DLP方式)によるによる光造形樹脂(アクリレート)を鋳造しています。現在の3Dプリンティングモデルからの鋳造(ダイレクトキャスティングでは、日本国内や中国などの宝飾業界では、PLA方式やDLP方式による3Dモデルの鋳造が主体です(高融点金属は除く)。一方、海外の工業製品(セラミックシェル法)や米国などでのプラチナ鋳造(ブロックモールド法)では、ワックスで3Dモデリングするマルチジェット3Dプリンターが多く使われているようです。

3Dプリンターによる積層造型物からのダイレクトキャスティングは、AM(アディティブマニュファクチャリング)においていちばん現実的な手段のひとつです。

 

ワックスでつくる3Dモデル/マルチジェット3Dプリンター

鋳造を前提にした3Dプリンティングでは、光硬化樹脂にワックスを混ぜたキャスタブルレジンを使ったモデルが主流という話はしましたが、実はワックスそのものを3Dプリンティングできる機種もあります。この3Dプリンターは、米国などでのプラチナ合金の宝飾品の製造で実績を上げています。

ワックスとサポート材を同時に吐出して造型する3Dプリンターで、サポート材は光造形システムみ見られる柱状に取り付けられるのではなく、ワックスモデルの空間を埋めるように取り付けられます。出力後は溶剤に漬け込みサポートを除去するので、サポート除去の手間がかかりません。

このモデルを鋳造する場合の鋳型焼成は、基本的に宝飾品の生産で使われる彫刻用ワックス焼成カーブで鋳型の焼成が可能です。

しかし、出力されたモデルの面に、造形方法に由来する粗さがあるため、ブラスト処理程度の処理であれば問題はありませんが、鏡面仕上げを前提とした場合、光造形樹脂の鋳造と比べ仕上げの処理に時間がかかる可能性があります。
また、モデリングにかかる時間も光造形システムに比べ時間がかかります。

弊社でも実験を重ね、より良い鋳造結果が得られる鋳型焼成勾配を模索中です。

 

PLAは鋳造性が抜群

PLA樹脂は、熱による溶解性も良く鋳型内に残渣が残りにくいため、鋳造性に優れています。
このため、FDM方式など、PLA樹脂をサポートしている3Dプリンターの造形物も鋳造が可能です。

同じFDMでサポートしているABS樹脂の場合、ABSの種類により鋳型の焼成で残渣が残り、鋳造物にガス鋳巣が発生する場合があるため、PLAをお勧めします。一般的にFDM方式の3Dプリンターでは、ディテールの表現に限界があるため、小さな造形物の精度が他の3Dプリンターより劣る場合が多く見られますが、近年登場した比較的高額(80万円前後)のFDM方式の3Dプリンターなどでは、かなり精度面で進歩していますので、形状によってはダイレクトキャスティングが可能な3Dプリンターとして、充分使用が可能と思われます。

 

キャスタブルレジンでも万能ではない

キャスタブルレジンで鋳造を行う場合でも、注意しなければならない点があります。

成分が公表されてないため断言はできませんが、「キャスタブル」という名称であっても、メーカーによりこの混合比率が異なったり、混ぜるワックスの種類が異なるようで、その鋳造性や適切な焼成条件が微妙に異なる可能性があるということです。

一般的には、ワックスの混合比を上げると鋳造性は向上しますが、角が鋭角に表現できないなど、モデルの精度が劣る場合があります。つまり、精度と鋳造性は相反する条件となります。
3Dプリンターで重要な要素のひとつに精度が挙げられます、精度は当然優先されるべき条件であるため、STLデータとの整合性を確保するため、ワックスを混合する量には限界があります。
このため、キャスタブルレジンであっても、メーカーの違いにより鋳型焼成温度勾配を変えて、より素材にてきした条件で焼成を行うこと、そしてアクリレートの膨張に対して耐久性がある埋没材が必要です。これらの条件をクリアーしてはじめてインジェクションワックスからの鋳造に近い鋳肌が得られます。

 

ダイレクトキャスティングの将来

今後も金属3Dプリンターの技術革新は、間違いなく続いて行くでしょう。しかし一方ではSLA方式やDLP方式で使用されるUV硬化樹脂の鋳造性も向上していくと考えます。これは、装置の価格もさることながら、金属3Dプリンターで使用される素材の種類やコストに課題を残しているからです。

また、製品に要求される研磨状態(条件)によっても変わります。現段階での金属3Dプリンターでの表面祖度では、鏡面仕上げが要求される製品には最適とは言えないからです。

3Dプリンターメーカーもダイレクトキャスティングの将来性を認め、光造形システムで使用する光造形樹脂については、より鋳造性の良い、いわゆるCASTABLE RESIN をリリースしていることは周知の通りです。

このキャスタブルレジンは、光造形樹脂(実際は樹脂ではなくアクリレート)と鋳造用のパラフィン系ワックスを一定の比率で混合し、鋳造性と精度を両立させています。鋳造に使用する埋没材もダイレクトキャスティングにより適した性能を持たせた製品が発売されています。メーカーによっては、ワックス含有量を従来のキャスタブルレジンに比べて増量しているもの(FORMLABS / FORM 3 PLUS / CASTABLE WAX(商品名)をリリースしています。

宝飾業界など、3Dプリンターモデルのダイレクトキャスティングが一般化している業界では、融点が1200℃以下の金属ではダイレクトキャスティングはある程度実用化が完了していると言えます。これより高い融点の合金の場合、鋳型温度焼成勾配を変えることによりある程度良品が得ることが可能です。この特別な焼成温度勾配については、今後別のコラムで紹介をしたいと思っています。

弊社でもアンブローズ&カンパニー社と共同実験で、DLP方式用のキャスタブルレジンを販売しております。このキャスタブルレジンでは、専用の焼成炉の焼成カーブによりプラチナやステンレスなどの高融点金属の鋳造にも対応しています。

 

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