鋳造用語集

二相組織(にそうそしき)
Dual-phase Structure / Two-phase Structure / Duplex Structure

主に材料科学、特に金属学の分野で用いられる用語で、2種類の異なる相(Phase)が共存している金属組織のことを指す。
主に溶接や鋳造、不適切な熱処理といったプロセスで、材料が急激な温度変化や不均一な冷却にさらされたときに生じやすい。
目的をもって作られる二相組織と偶発的につくられる二相組織とは、合金の特性が異なる。

偶発的に形成される二相組織(Dual-phase Structure /  Tow-phase Structure)

合金が液体から固体に変化する際(鋳造や溶接)に、冷却速度が速すぎるために熱力学的平衡(変化することなく、安定にそんざいしていることやその状態)に達しない場合に発生する。

  メカニズム
冷却の開始
液体合金が凝固点以下に冷却され始めると、まず融点の高い、特定組成の結晶(初晶)が核生成する。

元素の濃縮
初晶が成長する際、液体中に溶け込んでいる他の合金元素(特に融点を下げる元素)は結晶に取り込まれずに、残った液体(液相)の方へ押し出される。これを偏析と呼ぶ。

. 非平衡な凝固
冷却速度が速いと、偏析した元素が拡散によって均一化する時間がない。
そのため、最後に凝固する液相の領域では、これらの元素の濃度が極端に高くなる。

第二相の生成
濃縮された元素によって、最後に凝固した領域の組成は、本来意図した相とは異なる相(例:低融点の金属間化合物や別の結晶構造を持つ相)を形成する。

結 果
不均一な組織: 結晶粒の中心と粒界(最後に凝固した部分)で組成と組織が異なり、意図しない二相組織が形成される。
この一例として、オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部で、クロムやモリブデンなどの元素が偏析し、意図せず微量のフェライト相が生成する現象。

偶発的に形成される二相組織の欠点

分   類理    由  具体的な問題
■  特性の不均一相の割合や分布が制御されていない。組織のムラにより、機械的特性(強度や硬さ)が不安定になる。
■  靭性・延性の低下脆い第二相が粗大に析出する。脆い相が粒界(結晶の境目)に析出することで、亀裂の起点となり、衝撃に弱くなる。
■  耐食性の低下2つの相間で電位差が生じる。異なる相が接することで局部電池を形成し、粒界腐食や孔食などの劣化を促進する。
■  特定の劣化有害な相が生成する。ステンレス鋼で意図せずシグマ相(非常に脆い金属間化合物)が生成すると、耐食性と靭性が著しく低下する。

目的をもって作られる二相組織

二相組織の材料は、熱処理や合金組成の調整によって、結晶構造や化学組成が異なる2つの相が混ざり合った状態で存在している。
この組織を持つ材料は、それぞれの相が持つ特性を兼ね備えることで、単相の材料では得られない優れた機械的特性や耐食性などを発現することが期待される。

■  主な特徴

特    徴詳         細
2つの相の共存  組織全体が2種類の相から構成される
特性のハイブリット  2つの相それぞれの長所を組み合わせた特性を持つことが多い。
例えば、一方の相が高い強度を、もう一方の相が高い靭性や耐食性を持つなど。
組 織 制 御■  熱処理条件(加熱温度、保持時間、冷却速度など)や合金元素の添加量によって、2つの相の割合や形態(粒子の大きさ、分布など)を細かく制御することで、材料の特性を調整する。

目的をもった二相組織の利点

分   類理    由  具体的な問題
■  溶接部の割れ防止微量の第二相が応力を分散する。オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部に微量(数%程度)のフェライト相が意図せず生成した場合、これが溶接時の凝固割れ(ホットクラック)を抑制する効果を持つことが知られている。
■  強度・硬さの向上微細な析出相が転位移動を妨げる。冷却過程で微細な析出相(第二相)がランダムに生成し、結果的に材料の硬さや降伏強度がわずかに高まることがある。
ただし、これは延性の低下と引き換えになることが多い。

二相組織の例

  二相鋼(フェライト相とマルテンサイト相)
 高強度でありながら、プレス加工しやすい

  二相鋼(フェライト相とセメンタイト相)
 やわらかいフェライト相と硬く脆いセメンタイトが組み合わさることで、純鉄よりも高い強度を持つ。

  二相チタン合金(α-β型チタン合金)
 α相の安定化元素(Alなど)とβ相安定化元素(Vなど)を添加し、熱処理により両相のバランスを調整して用途に応じた特性を引き出す。

  ジェラルミン・ベリリウム銅
 熱処理により金属間化合物を微細に析出させ、硬さや強度を大幅に向上させる。

 

 

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