析出硬化系ステンレス鋼(せきしゅつこうかけいすてんれすこう)
Precipitation Hardening Stainless Steel
析出硬化を前提にしたステンレス鋼であり、高強度、高硬度、そして優れた耐食性をバランスよく兼ね備えた特殊なステンレス。
SUS630に代表されるステンレスで、業界では「17-4PH(じゅうななよんピーエイチ)」とよく呼ばれる。(クロムが17%、ニッケルが4%の析出硬化の意味)。
基本となる「クロム・ニッケル」の組み合わせに、硬化を促すための「析出硬化元素」をわずかに加えているステンレス鋼。
代表的な種類として、SUS630 (17-4PH)やSUS631 (17-7PH) などがある。
但し、高温域(約300°C以上)で長時間使用すると「脆性(もろさ)」が出てくるという弱点がある。
そのため、超高温環境には不向きとなる。
主な特徴
■ 極めて高い強度
ステンレス鋼の中でもトップクラスの強度と硬度を持つ。
■ 優れた耐食性
SUS304に近い耐食性を維持しており、マルテンサイト系(SUS440Cなど)よりも錆びにくい。
■ 加工性の良さ
最終的な時効処理(時効硬化)の前であれば、比較的切削加工が容易。
■ 少ない熱歪(ねつひずみ)
焼き入れのような急冷・高温処理を必要としないため、完成サイズに近い状態での熱処理(寸法変化の抑制)が可能。
熱処理温度
析出系では、熱処理プロセスごとに重要な温度が決まっている。
| 現 象 | 温 度(目安) | 内 容 |
| A_cl 変態点(加熱時変態開始点) | 約670℃ | 加熱時にオーステナイトへ変化し始める温度。 |
| Ms 点 | 約130℃ | 冷却時にマルテンサイト変態が始まる温度。 |
| Mf 点 | 約30℃ | マルテンサイト変態が完了する温度。 |
| 固溶化熱処理温度 | 1020~1060℃ | 全ての成分を均一に溶かし込むための加熱温度。 |
| 時効硬化温度 | 470~630℃ | 「析出硬化」を起こさせる温度。 最も硬くなるのは約 480℃(H900処理)。 |
代表的な用途
| 名 称 | 特 徴 | 製 品 例 |
| SUS630(マルテンサイト系) | 最も一般的。 固溶化熱処理状態でマルテンサイト組織を持ち、低温の時効処理だけで最高硬度が得られる。 加工性と強度のバランスが良い。 | ポンプシャフト、バルブステム、航空機用ボルト、手術用器具(メス等)、ゴルフクラブヘッド、高圧洗浄機ノズル |
| SUS631(セミオーステナイト系) | 固溶化熱処理状態ではオーステナイト組織で加工しやすく、加工後または熱処理後にマルテンサイト化させてから時効硬化させる。 バネ性に優れる。 | 精密バネ、耐熱ばね、ドームスイッチ(接点)、スチールベルト、圧力センサーのダイヤフラム、航空機構造材 |
| SUH660(オーステナイト系) | 高温域(約650℃まで)でも高い強度と耐酸化性を維持できる。 非磁性が必要な環境にも適しているが、硬度は上記2種よりは低い。 | 航空機エンジン部品、ガスタービン用ボルト・ナット、排気系部品、原子力発電所の耐熱部材 |
※SUH
JIS規格では「耐熱鋼(SUH)」に分類されることもある。
高温下での「クリープ強度」を重視する特殊環境用。
鉄系合金の比重や融点を見る
鋳造用語 索引
