焼きもどし脆性(やきもどしぜいせい)
Temper Embrittlement
焼き入れした鋼を「焼き戻し」する際に、本来なら向上するはずの粘り強さ(靭性)が、特定の温度域で逆に低下してもろくなってしまう現象。
大きく分けて、「低温焼き戻し脆性」と「高温焼き戻し脆性」の2種類がある。
→ 熱間脆性
低温焼き戻し脆性 / 第1種焼き戻し脆性
比較的低い温度で焼き戻したときに起こる脆化。
■ 温度域
約250〜350℃付近(材料により200〜400℃)。
■ 特 徴
「不可逆的」(一度この脆性が起きると、加熱し直しても元に戻らない)なのが最大の特徴。
■ 原 因
焼き入れ組織(マルテンサイト)から、炭化物が非常に薄い板状になって結晶粒界に析出し、それが破壊の起点になるためと考えられている。
■ 対 策
この温度域での焼き戻しを避けるのが一般的。
高温焼き戻し脆性 / 第2種焼き戻し脆性
高い温度で焼き戻したとき、またはその温度域をゆっくり冷却したときに起こる脆化。
■ 温度域
約450〜600℃付近。
■ 特 徴
「可逆的」(脆くなっても、さらに高温(600℃以上)から急冷すれば粘り強さが回復する)。
■ 原 因
「リン(P)」「アンチモン(Sb)」「スズ(Sn)」などの不純物元素が、結晶粒界に集まって(偏析して)粒界の結合力を弱めるためである。
■ 対 策
● 急 冷
焼き戻し後、この温度域を素早く通過させる(水冷・油冷)。
● 合金元素の添加
モリブデン(Mo)を添加すると、不純物の偏析を抑制できるため非常に効果的である。
● 不純物の低減
リンなどの有害成分を減らした高純度な鋼材を使用する。
違いの比較
| 項 目 | 低温焼きもどし脆性 | 高温焼き戻し脆性 |
| 発生温度 | 250〜350℃付近 | 450〜600℃付近 |
| 可 逆 性 | 不可逆(直らない) | 可逆(急冷で回復する) |
| 主な原因 | 炭化物の形態(板状析出) | 不純物(P, Snなど)の粒界偏析 |
| 主な対策 | この温度域を避ける | モリブデン(Mo)添加、焼き戻し後の急冷 |
ポイント
現場では、強硬度を求めるなら「200℃以下」の低温焼き戻しを、靭性(粘り強さ)を求めるなら「600℃付近」の高温焼き戻しを行い、その間の「脆化ゾーン」を避けるのが鉄則と言われている。
鋳造用語 索引
