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吉田キャスト工業株式会社

鋳造用語集

ス ズ / 錫(すず)
Tin

スズ(錫)は、周期表では第5周期・第14族の炭素族に属する金属元素である。元素記号はSn。銀白色の光沢を持つ軟らかい金属で、融点が約232℃と比較的低く、加工性や耐食性に優れている。

スズは人類が古くから利用してきた金属の一つであり、との合金である青銅として紀元前3000年頃には広く利用されていた。銅にスズを加えることで純銅よりも硬くなり、組成によっては鋳造性も向上することから、武器、工具、容器、装飾品などの材料として普及した。青銅の利用は古代文明の発展に大きな影響を与え、歴史上の「青銅器時代」を形成する重要な要因となった。

英語の「Tin」は古英語に由来し、元素記号「Sn」はラテン語の「stannum」に由来する。stannumは古代から現在とまったく同じ意味で純粋なスズだけを指していたわけではなく、などに関連する金属・合金を表す言葉としても用いられ、後にスズを意味する名称として定着した。

スズは比較的化学的に安定しており、金属スズや多くの無機スズ化合物は比較的毒性が低い。また、食品の味や風味に影響を与えにくいことから、古くから食器や食品容器などにも利用されてきた。ただし、有機スズ化合物の中には強い毒性を示すものもあるため、金属スズとは区別して考える必要がある。

古くから行われてきたスズの利用方法の一つが、銅製の鍋や茶器などの内側を薄いスズで覆う「錫引き(すずびき)」である。銅の表面をスズで被覆することで食品と銅との直接接触を避け、特に酸性食品などによる銅の溶出や腐食を抑えることができる。この性質から、スズは銅製調理器具や食器のコーティング材として古くから利用されてきた。
また、薄い鋼板の表面にスズをめっきしたものをブリキ(tinplate)という。スズの優れた耐食性を利用してを腐食から保護するもので、缶詰などの食品容器をはじめ、さまざまな製品に使用されてきた。
近年、スズの特に重要な用途となっているのがはんだ材である。従来はスズとを主成分とするSn-Pb系はんだが広く使用されてきたが、環境・健康への影響から鉛の使用が制限されるようになり、現在ではSn-Ag-Cu系などの鉛フリーはんだが電子機器を中心に広く使用されている。そのためスズは、スマートフォン、コンピューター、自動車、家電製品など、現代の電子産業を支える重要な金属となっている。
このほか、スズは低融点合金ホワイトメタルの合金成分、青銅、軸受合金、食器、酒器、工芸品などにも利用されている。

天然では単体として存在することは少なく、主に錫石(cassiterite:SnO₂)として産出する。錫石を選鉱・濃縮した後、酸化スズを炭素によって高温で還元することで金属スズが得られる。

スズのもう一つの大きな特徴が、温度によって結晶構造が変化する同素変態を示すことである。
通常目にする銀白色の金属状態のスズはβスズ(白色スズ)であり、13.2℃以上で安定する。βスズは体心正方晶(BCT:Body-Centered Tetragonal)の結晶構造を持ち、金属特有の光沢や延性を示す。
一方、13.2℃以下ではαスズ(灰色スズ)が熱力学的に安定となる。αスズはダイヤモンド型立方晶構造を持ち、βスズとは異なり半導体的な性質を示す。
βスズからαスズへ変態すると体積が約27%増加するため、スズ製品は次第に脆くなり、最終的には粉末状に崩壊することがある。
この現象を「スズペスト(tin pest)※1」または「スズ病」という。
ただし、温度が13.2℃以下になった瞬間にスズが崩壊するわけではない。βスズからαスズへの変態には核生成と成長が必要であり、温度、保持時間、スズの純度や含まれる不純物などによって進行速度は大きく異なる。

スズ/Tin(Sn)
スズも同素変態を起こすことで有名である。
β スズ(白色スズ) 常温から911℃までの安定相。
体心立方格子構造(BCC)を持つ強磁性体。
α スズ(灰色スズ) 13.2℃以下で安定な非金属。
βスズからαスズへの変態は体積が約27%も増加するため、スズ製品がボロボロに崩れてしまう現象を引き起こす。
これはスズペストと呼ばれ、これが原因とされる「西洋史でナポレオンにまつわる有名な話※2」が語り継がれている。
δ 鉄(デルタフェライト) 1392℃から融点までの安定相。
その後、温度上昇とともに再び体心立方格子構造(BCC)に戻る。

※1 スズペスト 
スズ(錫)には、温度が下がると結晶構造が変化する「同素変態」という性質があります。
白スズ(β錫)は、 通常のキラキラした金属状態ですが。気温が約13.2°C以下になると、徐々に脆い灰色の粉末に変化して灰スズ(α錫)になります。
この現象が「スズペスト」と呼ばれ、一度始まると周囲のスズに伝染するように広がり、最終的には金属としての強度が失われ、ボロボロに崩れ去ってしまいます。

※2 ナポレオン伝説
1812年、ナポレオン率いる大軍(グランダルメ)がロシアに侵攻しましたが、このとき記録的な寒波に見舞われました。
当時のフランス軍の制服のボタンは「スズ製」だったと言われています。
猛烈な寒さ(氷点下30°C以下)によってボタンが「スズペスト」を起こして粉々に砕け、兵士たちはコートを前で留めることができなくなりました。
凍える手で服を押さえながら戦う羽目になり、軍隊としての規律や戦闘能力を喪失。それが壊滅的な敗北につながったという話です。
歴史や科学の雑学として非常に人気のあるエピソードですが、現在では「都市伝説」に近いものと考えられています。

その科学的な根拠として。
■  当時のスズボタンには通常、アンチモンなどの不純物が混ざっており、これらはスズペストの進行を遅らせる効果があること。
■  スズペストが金属を粉々にするには数週間から数ヶ月の時間がかかります。急激な戦闘の合間に一斉に壊れるとは考えにくいこと。
■  そもそも、ロシア遠征の失敗は「飢え」「チフス」「焦土作戦」「冬将軍」という圧倒的な悪条件が重なったもので、ボタンの有無に関わらず絶望的な状況であったこと。

上記の状況と事実から、実際には、ボタンが壊れた兵士もいたかもしれませんが、それが数十万の軍隊を崩壊させた決定打だったというのは、少し誇張されたエピソードだと言えるでしょう。

元   素   記   号   Sn
陽      子      数   50
価   電   子   数   4
原      子      量   183.710
融                点   231.93
沸                点   約2600
密                度  約7.3(βスズ、常温)
存      在      度 地球  約2 ppm  宇宙 約0.004 ppm(質量比)
代表的な製品 トタン・錫引き(銅食器などへのコーティング材)・はんだ、ブリキ、青銅、ホワイトメタル、食器、酒器、工芸品

スズと鋳造

スズは融点が約232℃と低く、比較的容易に溶解・鋳造できる金属である。溶湯温度を低く抑えることができるため、鉄や銅などの高融点の金属と比較すると、溶解設備や鋳型に要求される耐熱性も低い。

純スズは軟らかく延性に富む一方、機械的強度が低いため、構造材料として単独で鋳造されることは多くない。しかし、耐食性が高く、銀白色の美しい外観を持つことから、食器、酒器、装飾品、工芸品などの鋳造に利用されている。

鋳造分野で特に重要なのは、スズを合金元素として添加した場合の効果である。
その代表が、銅にスズを添加した青銅(Cu-Sn系合金)である。銅にスズを添加すると、一般に純銅より硬さや強度、耐摩耗性が向上する。また、組成によっては溶湯の流動性や鋳型への充填性にも優れるため、古くから鋳造に適した銅合金として利用されてきた。
こうした性質を利用して、青銅は仏像、梵鐘、美術工芸品などの複雑な形状を持つ鋳物から、軸受や機械部品まで幅広く使用されている。日本においても古くから仏具、仏像、梵鐘、銅像などの鋳造に使用されており、スズは日本の鋳造文化とも深い関係を持つ元素である。

一方、Cu-Sn系合金ではスズの添加量が増加すると、一般に硬さや耐摩耗性が向上する反面、延性が低下して脆くなる傾向がある。また、スズ量によって凝固温度範囲や凝固時に生成する相も変化するため、目的とする機械的性質や鋳造性に応じた成分管理が重要となる。

スズはホワイトメタルや低融点合金の主要な合金元素としても利用されている。特にスズを主成分とするホワイトメタルは融点が低く、鋳造しやすいうえ、なじみ性や耐焼付き性に優れることから、すべり軸受などに利用されてきた。

また、スズは溶融状態では表面に酸化物を生成する。鋳造時にこの酸化物を溶湯内部へ巻き込むと鋳造欠陥の原因となるため、必要以上に溶湯を攪拌せず、過度な加熱を避け、適切な温度で静かに注湯することが重要である。

低い融点、合金化によって得られる優れた鋳造特性、そして青銅を通じて数千年にわたり利用されてきた歴史から、スズは人類の鋳造技術の発展と特に深い関係を持つ元素の一つである。

酸化による発色(薄膜干渉)

表面を意図的に酸化させ、酸化皮膜による色調変化を利用する表面処理があります。特に工芸品や装飾品では、スズ本来の銀白色とは異なる青・紫・黄・金色系などの色調を表現する方法として利用されている。

 スズの酸化による発色の仕組み
スズの表面を加熱したり、酸化性の雰囲気にさらしたりすると、表面に主として酸化スズ(SnO₂)を含む薄い酸化皮膜が形成される。
このとき重要なのは、酸化スズそのものが青や紫などの強い色を持っているわけではないことである。SnO₂は基本的には白色~無色透明に近い物質。
酸化皮膜が非常に薄い場合、皮膜表面で反射する光と、皮膜を通過して金属表面で反射する光が互いに干渉する。この薄膜干渉によって、特定の波長の光が強められたり弱められたりし、人間の目には色が付いているように見える。
これは、チタンやステンレス鋼を加熱した際に現れる「テンパーカラー」と基本的に似た原理である。
スズ → 加熱・酸化 → 薄い酸化皮膜 → 膜厚の変化 → 光の干渉 → 発色
という流れである。

 温度・時間によって色が変化する
酸化皮膜は、一般に加熱温度が高くなる、あるいは加熱時間が長くなるほど成長する。そのため、条件を調整することで、
淡黄色 → 金色系 → 赤紫・紫系 → 青系  などの干渉色が現れる場合がある。

ただし、ここは注意が必要となる。
スズは融点が231.93℃と非常に低いため、鉄やチタンのように高温まで加熱して発色させることはできない。なぜならば、温度を上げすぎれば表面処理どころかスズ自体が軟化・溶融してしまうからである。
また、得られる色は単純に「○℃なら青、○℃なら紫」と一義的に決まるものではない。表面粗さ、酸化前の研磨状態、スズの純度、加熱時間、酸素濃度、皮膜厚さなどによって変化する。

 薄膜干渉と古美仕上げ(パティナ)
スズの着色について調べると、薬品を使った「古美仕上げ」「パティナ」「黒染め」などもある。
しかし、これらは必ずしも酸化スズによる発色ではない。
硫黄系薬品などを使用した化学着色では、酸化物だけでなく硫化物など別の化合物を表面に形成して色を出す場合がある。
したがって、
酸化皮膜の薄膜干渉による発色 = 皮膜そのものの色というより、光学的な干渉色
化学着色・古美仕上げ = 表面に着色した化合物を形成する
と分けて考えると理解しやすい。

-こぼれ話ー
金属なのに「鳴く」?――スズの鳴き

純度の高いスズの棒を手に持ち、ゆっくり曲げてみると、「キリキリ」「パチパチ」といった独特の音が聞こえることがあります。
この現象は「スズ鳴き(tin cry)」と呼ばれています。
もちろん、スズそのものが声を出しているわけではありません。
スズに力を加えて塑性変形させると、金属内部の結晶が変形し、結晶中で双晶形成などが起こります。このときに生じる微細な振動が音として伝わり、人間の耳にも聞こえる独特の「鳴き声」となるのです。
特に純度の高いスズでは、この音を確認しやすいとされています。そのため「スズ鳴き」は、古くからスズらしさを示す特徴の一つとして知られてきました。
一般に金属の性質といえば、硬さ、重さ、融点、色、磁性などを思い浮かべます。しかしスズは、「音」という人間の耳で直接確認できる特徴を持つ珍しい金属でもあります。
銀白色の静かな金属を手で曲げると、その内部の結晶から小さな音が聞こえてくる。
「スズは鳴く」――元素の性質を目だけでなく、耳でも感じることができる面白い現象です。

 

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