転 移/転移反応(てんい / てんいはんのう)
Transfer Reaction
『原子または原子団(基)が骨格に変化を与えずに結合位置を変えること』
(ウィキペディアより抜粋)
→ 相転移
→ 転位/転位反応
冶金学におけ転移反応(相変態/相転移)とは、物質の化学組成は変わらずに、温度、圧力、または化学ポテンシャルの変化に伴って、結晶構造や原子配列、磁性などの状態が変化する現象を指す。
特に金属材料、とりわけ鋼(鉄鋼材料)の熱処理(焼きなまし、焼き入れ、焼きもどし)において、材料の組織(ミクロ構造)と機械的性質(強度、硬度、靭性)を制御するために最も重要な現象。
転移反応の主な分類
拡散型変態
■ 拡散型変態の定義
原子が熱エネルギーによって拡散(移動)し、新しい相が核を形成し、時間をかけて成長していく変態。
■ 特 徴
時間依存性が大きく、冷却速度が遅いほど進行する。温度と時間によって変態の進行度が決まる(TTT曲線やCCT曲線で解析)。
■ 代 表 例
● 同素変態(同質多形変態)
純鉄が低温の体心立方格子(BCC)のalpha鉄(フェライト)から、高温の面心立方格子(FCC)のgamma鉄(オーステナイト)に変化する変態。
● パーライト変態
鋼のオーステナイト(gamma相)が冷却される際に、フェライト(alpha相)とセメンタイト(Fe3C)が層状に交互に析出する組織(パーライト)を形成する変態。
● ベイナイト変態
パーライト変態温度域とマルテンサイト変態温度域の中間温度域で起こる変態で、フェライトとセメンタイトが葉状/針状に生成する。
拡散も関与するが、マルテンサイト的なせん断変形的な側面も持つ中間的な変態。
無拡散型変態
■ 無拡散型変態の定義
原子が拡散(移動)をほとんど伴わず、結晶格子全体がせん断変形によって協同的・瞬時的に形を変える変態。
■ 特 徴
極めて速く進行し、冷却速度(急冷)が速い場合に起こる。
変態開始温度(M点)と終了温度(Mf点)で決まり、時間依存性はない。
■ 代 表 例
● マルテンサイト変態
鋼のオーステナイト(γ/gamma相)を急冷することで、炭素原子が拡散する暇なく、BCC構造をひずませた体心正方格子(BCT)のマルテンサイト組織が形成される。
この組織は極めて硬く脆いことが特徴。(焼き入れの原理)
ステンレス鋼(熱処理と組織の変化)
| 冷却過程と熱処理 | 転移反応 | 結果組織 | 特徴 |
| 徐冷 (焼きなまし) | 拡散型(フェライト・パーライト変態) | フェライト + パーライト | 軟らかく、延性に富む |
| 油冷・空冷 | 拡散型・中間型(ベイナイト変態) | ベイナイト | 強度と靭性のバランスが良い。 |
| 水冷 (焼き入れ) | 無拡散型(マルテンサイト変態) | マルテンサイト | 非常に硬く、脆い。焼き戻し処理が必要。 |
チタン合金(Ti-6AI-4Vのα+β型)の熱処理
| 冷却過程と熱処理 | 転移反応 | 結果組織 | 特徴 |
| 高温(β相領域)からの急冷 | 無拡散型変態(マルテンサイト変態) | α/alfa 相(チタンのマルテンサイト) | 高硬度で、純チタンの六方最密構造(HCP)を歪ませたような構造。 |
| β相領域からの空冷(中間冷却) | 拡散型変態(β→α) | α/alfa 相とβ/beta 相の混合組織 | α相が針状(ラス状)になり、強度が増加。 |
| β相領域からの徐冷/等温焼鈍 | 拡散型変態(β→α) | 球状化されたα/alfa 相 | 高い塑性(延性)と熱安定性(高温での変形しにくさ)。 |
アルミニウム合金(Al-Cu系)(Al-Mg-cu系)の熱処理
| 冷却過程と熱処理 | 転移反応 | 結果組織 | 特徴 |
| 溶体化処理(高温加熱) | 溶解 | 溶質原子の過飽和固溶体 | 溶質原子(CuやMgなど)をAlの結晶中に最大限に溶解させる。 |
| 焼入れ(急冷) | 無拡散型変態(溶質原子の固定) | 過飽和固溶体 | 溶質原子が拡散する暇なく、高温での溶解状態を室温に持ち込む。(過剰空孔も含まれる)。 |
| 時効処理(低温加熱/室温放置) | 析出型変態(時効硬化) | GPゾーン(溶質原子の集合体)、中間相(θ/thetaなど) | 転位の運動を妨げるナノスケールの微細な析出物が均一に形成され、大幅な強度向上(硬化)が得られる。 |
銅合金(Cu-Sn系)(Cu-Ni-Sn系)の転移反応
銅合金では、析出硬化や規則ー不規則変態、スピノーダル分解といった転移反応が見られる。
■ 析出硬化型合金(例:ベリリウム銅、一部のCu-Ni-Sn系)
アルミニウム合金と同様に、溶体化処理後の急冷により過飽和固溶体を作り、その後の時効処理で微細な析出相を形成させ、強度を向上させる。
■ スピノーダル分解型合金(例:Cu-Ni-Sn系)
固溶体が核形成を必要とせず、原子の小さな濃度ゆらぎが拡散によって増幅し、2つの相に分離する現象。
これにより、周期的な微細構造(変調構造)が形成され、これが転位の移動を妨げて強度を大きく向上さる。
冷却後の低温時効処理がこの分解を促進させる。
■ 共晶合金(例:銀-銅合金)
液相から凝固する際、共晶温度以下で2種類の固体相(alpha相とbeta相)が微細な層状組織(共晶組織)として同時に晶出する(共晶)。この微細な組織も強度に影響を与える。
これらの非鉄合金の転移反応は、拡散型または析出型が主体であり、特徴として、組織の微細化や硬化メカニズムが、炭素鋼のマルテンサイト変態とは異なる。
鋳造用語 索引
