工業や建築産業以外の分野でもCAD設計の技術を持つ人が増え、また、3Ⅾプリンターの低価格化で、個人で3Ⅾプリンターを持たれている方もかなり増えてきました。ジュエリー業界でも個人で設計と3Ⅾプリンティングを行い、鋳造鋳造工場に委託製造している方も少なくないと想像します。
以前、主流だった一点物の鋳造では、彫刻用ワックスを削って作った手作りワックス型を鋳造工場に持ち込み、鋳造依頼をしていたと思います。その時には注文を受けてくれた鋳造工場でも3Ⅾプリンターで出力された紫外線硬化樹脂の場合には委託鋳造を受けてくれなかったり、受注に難色を示す工場があります。これは、「乗車拒否」ですよね・・・タクシーだったら許されることではありません。
しかし、ダイレクトキャスティングが抱える技術的な問題を考えると、工場側で「避けたい事情」が透けて見えてきます。
鋳造を依頼する方々にも、そこにどんな裏事情があるのかを知っていただき、受注側への理解を深めていただけたらと思いますし、どのような注文方法であれば受けてもらえるかのヒントも添えながら工場の本音を明かしたいと思います。
鋳型焼成条件の違い
キャスタブルレジンでも、紫外線硬化樹脂の入った鋳型の焼成は、ワックスポットからゴム型に射出成型されたインジェクションワックスとは焼成条件を変えなければなりません。
近年のキャスタブルレジンは、以前と比べかなり改良され、融点が1300℃以下の通常の金属(金合金・銀合金・銅合金など)では、結果がかなり良くなってきています。
しかし、キャスタブルレジンの規格はなく、SLA方式で出力されたモデルでは、メーカーが独自で調合したレジンであり、サードパーティーの汎用キャスタブルレジンが使用できません。
仕事を受ける側では、「素性のわからないキャスタブルレジン」は、適切な鋳型の焼成カーブが分からないため、結果的に鋳造を失敗する可能性があるからです。
鋳造は、焼失させる物の素材(インジェクションワックスや彫刻用ワックスなど)により、焼成温度勾配を変える必要があります。また、鋳造品の大きさ・肉厚などによっても鋳型温度や鋳造条件を変える必要があります。3Dプリンターのキャスタブルレジンは、それ専用の焼成温度勾配で焼成しなければなりませんので、キャスタブルレジンだけで一つのワックスツリーを構成しなければなりません。
また、仮に1つの鋳型の中のすべての鋳造依頼品がキャスタブルレジンだとしても、焼成炉の焼成カーブを専用にプログラムしなければならないため、焼成炉1台分を専用に用意しなければならないことになります。
発注者側からすれば、「キャスタブルレジン」であり、「鋳造が可能な素材」ですから、鋳造は「成功して当たり前」です。もし、鋳造が失敗すればクレームを出しますし、鋳造のやり直しを求めますよね。
発注する数量
一般的には、3Dプリンターの本来の用途は、プロトタイピング用であり、単品で出力が可能であることが最大の利点であることから、鋳造工場に鋳造を依頼する場合でも各デザインの数量はほんの少数か1本だけの発注がほとんどだと思います。
工場の鋳造工賃は、「鋳型一個」に対して「いくら」を設定しています。話を簡単にすると、鋳型のサイズにより違いはありますが、鋳型一個で例えば3万円とします。その鋳型に1個しか鋳造物が入れられなければ、鋳造物1個の工賃単価は、3万円です。2個で1万5千円。10個で3千円・・・こんな感じです。
鋳造の工賃にも多少の金額の幅はあるにせよ、相場価格があります。なので、鋳造工場とすれば、預かり地金(発注者から自社製品専用の鋳造地金を外注の鋳造工場に預けてること)がある場合を除いて、委託鋳造を受けた鋳造物は、製造コストを下げるためできるだけ1個の鋳型に入れようとします。
つまり、鋳造依頼品が1つの場合は、他社からの鋳造依頼品の中にまぎれて鋳造されることになります。
このような事情から、結果的にキャスタブルレジンつくられたモデルは、この素材で必要とされる鋳型温度勾配とは異なる条件で焼成を行うことになるため、鋳造失敗のリスクが発生します。
鋳造工場の本音
最近のキャスタブルレジンは、以前のものよりかなり鋳造性が向上しているのは事実ですが、鋳造依頼を受ける側では、やはり失敗するリスクを完全に払拭することができないため、万が一失敗した場合に発生する「お客様からのクレーム」「やり直し」の可能性があり、鋳造工場自身の「評判」に悪影響を及ぼすことを懸念します。口コミの評判は、良くも悪くもお客様の信頼を左右します。本音でいえば、「余計なリスク」をしょい込みたくないのです。
それに、鋳造工場も商売ですから、より多くの発注をする顧客や歩留まりのよい条件に合わせます。多数を犠牲にして少数に合わせることは商売上危険です。
結果的に、キャスタブルレジンの鋳造は、鋳造工場にとっては「受けない方が無難」なのです。
発注側の工夫
キャスタブルレジンのモデルを外注に出す場合、「失敗してもクレームしない」前提で交渉してみることです。
もし、手持ちの3Dプリンターで硬い樹脂のプリンティングが可能であれば、キャスタブルレジンではなく、通常の樹脂(できれば硬い樹脂)で出力し、これを原型として鋳造工場にゴム型から通常のインジェクションワックスでワックス型を取ってもらい、それを鋳造するしかありません。
3Dプリンターからのプラチナ製品をつくる場合には、マルチジェット方式の3Dプリンターを使う場合を除き、ほとんどが、ゴム型をつくる従来の方法で生産されているはずです。
もし, DLP方式の3Dプリンターを使っているなら
アンブローズ&カンパニー社で販売するDLP方式用のキャスタブルレジン/JC-01R であれば、通常の焼成カーブでインジェクションワックスをキャストしたときの品質とほぼ変わらない鋳造物が得られます。
JC-01Rで出力したモデルを鋳造工場に持ち込んで『彫刻用ワックスの焼成条件(石膏系埋没材を使用する金属の場合のみ/高融点金属を除く)』で大丈夫ですと言えば、鋳造を受けてもらえるかも知れません。
※このキャスタブルレジンのプラチナ鋳造用の温度焼成カーブの実験を行っています。