白 金 族(はっきんぞく)/ 白金族元素(はっきんぞくげんそ)
Platinum Group / Platinum Group Metals / PGM
プラチナ・パラジウム・ロジウム・ルテニウム・オスミウム・イリジウムの6元素からなる貴金属グループ。
「白金族」という名称から、炭素族や窒素族のように周期表の一つの縦列を指すように思われることがある。
しかし、白金族は周期表上の単一の族ではない。
第8族のルテニウムとオスミウム、第9族のロジウムとイリジウム、第10族のパラジウムと白金という、周期表上で隣接する6種類の遷移金属を、その化学的・物理的性質の類似性からまとめた元素群である。
また、白金族は比重によって、
■ 軽白金族:ルテニウム(Ru)・ロジウム(Rh)・パラジウム(Pd)
■ 重白金族:オスミウム(Os)・イリジウム(Ir)・白金(Pt)
と分けられることもある。
| 白金族の種類と主な用途 | |
| プラチナ (Pt) | 自動車の排気触媒、スパッタリングターゲット工法によるハードディスクの円盤のメッキ材、宝飾品用の地金として使用される。 |
| パラジウム / (Pd) | 自動車の排気触媒や水素精製の素材として使用される。また、宝飾品のプラチナ合金の割り金やホワイトゴールドの割り金として使用される。 |
| ロジウム / (Rh) | 自動車の排気触媒や宝飾品のメッキ材として使用される。 |
| ルテニウム / (Ru) | 宝飾品のプラチナ合金を硬くする目的やスパッタリングターゲット工法によるハードディスクの円盤のメッキ材として使用される。 |
| オスミウム / (Os) | 最も少ない元素のひとつ。万年筆のニブと呼ばれるペン先の高級ペンポイントして使用される。 |
| イリジウム / (Ir) | オスミウムとならんで最も少ない元素のひとつ。発光材料の原料として有機LEDに使用される。 |
白金族元素の共通する特徴
白金族元素には、いくつかの共通した特徴がある。
■ 優れた耐食性を持つことである。特に白金やイリジウムは化学的に非常に安定しており、一般的な金属が腐食するような環境でも比較的安定である。
■ 多くの元素が高い融点を持つ。パラジウムは約1,555 ℃、白金は約1,768 ℃、ロジウムは約1,964 ℃、イリジウムは約2,446 ℃、ルテニウムとオスミウムはさらに高い融点を持つ。
■ 優れた触媒作用を示すことである。
白金族元素は、化学反応の前後で自身が大きく消費されることなく反応を促進する触媒として非常に優れた性質を持つ。そのため、自動車、石油化学、化学工業、燃料電池、水素関連技術など幅広い分野で利用されている。
さらに、白金族元素はいずれも地殻中の存在量が極めて少ない。この希少性に加えて分離・精製が難しいことから、非常に価値の高い金属群となっている。
同じ鉱石から産出する
白金族元素は化学的性質が互いに似ているため、天然でも同じ鉱床中に共存することが多い。
白金族鉱床のほか、ニッケルや銅の硫化鉱床などにも微量含まれており、ニッケルや銅を製錬する際の副産物として回収される場合がある。
主要な産出地域として南アフリカ、ロシア、ジンバブエ、北米などが知られている。特に南アフリカのブッシュフェルト複合岩体は、世界最大級の白金族元素資源を持つ鉱床として知られている。
白金族元素は互いの化学的性質が似ているため、鉱石から濃縮した後、それぞれの元素を高純度に分離する工程は複雑である。
この希少性と精製の難しさが、白金族元素の価値を高める要因の一つとなっている。
自動車触媒と白金族元素
現代における白金族元素の代表的な用途が、自動車の排ガス浄化触媒である。
ガソリン自動車の排気ガスには、一酸化炭素(CO)、未燃焼炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)などが含まれる。
三元触媒では、主として白金、パラジウム、ロジウムが使用される。
白金(Pt)・パラジウム(Pd)は、一酸化炭素や未燃焼炭化水素を酸化し、二酸化炭素や水へ変換する反応に優れている。
一方、ロジウム(Rh)は窒素酸化物を還元して窒素へ変換する反応に特に優れている。
つまり、同じ白金族元素でも触媒として得意とする反応が異なり、それらを組み合わせることで排気ガス中の複数の有害成分を同時に低減している。
水素社会と白金族元素
白金族元素は、水素エネルギー分野でも重要である。
特に白金は、燃料電池における水素の酸化反応や酸素の還元反応を促進する触媒として利用される。
また、水を電気分解して水素を製造する技術では、イリジウムやルテニウムを含む触媒が利用・研究されている。
パラジウムには大量の水素を取り込む性質があり、水素分離膜や水素関連触媒などにも利用される。
このため白金族元素は、自動車排ガスを浄化する「環境材料」であると同時に、将来の水素エネルギー技術を支える材料としても重要である。
宝飾品と白金族元素
白金族元素の中でも白金、パラジウム、ロジウムは宝飾分野との関係が深い。
白金は美しい銀白色の光沢と優れた耐食性を持ち、ジュエリー材料として広く利用されている。ただし純白金は比較的軟らかいため、実際のジュエリーではルテニウム、イリジウム、パラジウムなどを添加して機械的性質を調整する場合がある。
パラジウムもジュエリー材料として使用されるほか、金合金に添加してホワイトゴールドをつくるためにも利用される。
ロジウムは非常に明るい銀白色の光沢と高い耐食性を持つため、ホワイトゴールドや銀製品などの表面に薄いめっきを施す用途で広く利用されている。
このように白金族元素は、単独で使用されるだけでなく、互いを合金化したり、他の貴金属に添加したりすることで性能を引き出す元素群でもある。
高温材料と白金族元素
白金族元素には高温環境で重要なものも多い。
例えば白金-ロジウム合金は、高温強度や耐酸化性に優れるため、ガラス製造設備や高温測定用の熱電対などに利用される。
R熱電対、S熱電対、B熱電対は白金と白金-ロジウム合金を組み合わせた代表的な貴金属熱電対であり、高温領域の精密な温度測定に使用される。
イリジウムは非常に高い融点と耐食性を持つため、高温・高腐食環境における特殊な部材にも利用される。
一方、オスミウムは極めて高い密度と硬さを持つが、酸化すると毒性と揮発性を持つ四酸化オスミウム(OsO₄)を生成するため、金属としての用途は限定されている。
鋳造と白金元素
白金族元素は融点が高く、一般的なアルミ合金や銅合金と比較して溶解・鋳造が難しい元素が多い。
特に白金、ロジウム、イリジウムなどでは、高温での溶解技術に加え、るつぼ材料との反応、溶湯の温度管理などを考慮する必要がある。
ジュエリー分野では白金合金のロストワックス鋳造(ブロックモールド法)が行われるが、金や銀の鋳造よりも高い溶解・鋳型温度を必要とするため、鋳造機、埋没材、ルツボなどにも高温への対応が求められる。
白金族元素は高価であるため、鋳造時に発生する湯道(スプルー)、研磨粉(落ち粉)などの回収も重要である。
したがって白金族元素の鋳造では、単に「溶かして型へ流す」だけではなく、高温技術と貴金属回収を含めた材料管理が重要となる。
昔、白金は「邪魔な金属」だった
現在、白金といえば高級ジュエリーや貴金属の代表格です。
ところが、白金がヨーロッパ人に知られ始めたころ、その評価はまったく逆でした。
16世紀ごろ、南米で金などを採掘していたスペイン人たちは、砂金の中に混じっている白っぽい金属に悩まされていました。
この金属は非常に融点が高く、当時の技術では簡単に溶かすことができませんでした。しかも金と一緒に混ざって採れるため、金を精製する側から見ると扱いにくい「邪魔な金属」だったのです。
ちょうど、江戸時代で「油脂分が多く、早く腐ってしまうため、マグロのトロが捨てられていた」のと似ていますね。
スペイン人はこの金属を、スペイン語で銀を意味する「plata」から、「platina(小さな銀)」と呼びました。
これが現在のPlatinum(白金)という名前の由来です。
ところが、その後研究が進むと、この「邪魔な金属」が非常に優れた耐食性を持ち、高温にも強いことが分かってきました。
さらに19世紀初頭になると、白金鉱石の中には白金だけでなく、パラジウム、ロジウム、オスミウム、イリジウムなど、それまで知られていなかった別の元素が含まれていることが次々と明らかになります。
後にルテニウムも加わり、現在の6種類の白金族元素が知られるようになりました。
つまり、昔の人が「金や銀に混じる邪魔なもの」と考えていた鉱石の中に、実は現在の先端産業に欠かせない希少金属がいくつも隠れていたのです。
高くなったら入れ替える? 自動車触媒と貴金属相場
そして、現代では特にパラジウム、プラチナ、ロジウムは、いずれも自動車の排ガス浄化触媒に使われる重要な貴金属です。
ところが、この3元素の使用量は一定ではありません。
触媒としての性能だけでなく「どの金属がいくらで買えるのか」によって、自動車メーカーや触媒メーカーは使用する貴金属の種類や量を調整してきました。
その代表例がパラジウムです。
1990年代には、比較的安価だったパラジウムがガソリン車用触媒でプラチナに代わって大量に使われるようになりました。
ところが需要が急増する一方、主要供給国であるロシアからの供給に混乱が生じると、2000~2001年頃にパラジウム価格が急騰。一時は1トロイオンス当たり1,000ドルを超え、プラチナよりも高価になりました。
すると今度は、自動車メーカーが高くなったパラジウムの使用量を減らし、相対的に安価になったプラチナへ置き換える動きを進めます。
その結果、パラジウム需要が減少すると価格も大きく下落しました。
そして約20年後、再びパラジウム価格が高騰すると、またプラチナへの代替が注目されるようになります。
さらに激しい値動きを見せたのがロジウムです。
ロジウムは自動車触媒で窒素酸化物(NOx)を低減するために重要ですが、生産量が非常に少なく、供給が限られています。そのため需要増加や供給不安が起こると価格が急騰しやすく、2021年には年間平均価格が1トロイオンス当たり約24,000ドルという記録的な水準に達しました。
つまり自動車触媒では、
「高くなった金属を減らす」
↓
「別の白金族元素へ置き換える」
↓
「置き換えられた元素の需要が増える」
↓
「今度はその元素の相場にも影響する」
ということが実際に起こります。
ただし、プラチナ、パラジウム、ロジウムは何にでも自由に置き換えられるわけではありません。それぞれ得意とする触媒反応や耐熱性などが異なるため、排ガス規制、エンジンの種類、燃料、触媒温度などを考慮しながら配合を変更する必要があります。
自動車触媒は、化学性能だけでなく、貴金属の価格や世界の資源供給まで考えて設計されているのです。
パラジウムの価格変動を見ると、その背景には自動車産業、環境規制、ロシアや南アフリカの資源供給、そしてプラチナやロジウムとの代替関係があります。
貴金属相場は単なる投資市場の数字ではなく、実際の「ものづくり」と密接につながっているのです。
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