鋳造用語集

ス ズ / 錫(すず)
Tin

錫は、との合金である青銅として紀元前3000年頃から知られていた。
元々は、の合金を指すラテン語の「stannum」から名称をとった。
錫は、食品の味に影響を及ぼさない。銅製の茶器などの食器の内側に「錫引き(すずびき)」し、銅成分の溶出を防ぐためのコーティング材として使用されてきた。銅は、水に溶出し人体対して毒性があるので、これを防止するためである。

このように、『錫は人間や動物には容易に吸収されず、生体内での生物学的役割は知られていない。錫は金属や酸化物、塩類といった無機化合物の形では毒性が低いため食器や缶詰などの広範囲にわたって利用されている。』
(ウィキペディアより抜粋)

また、薄い鉄板からブリキをつくるメッキ材として使用される。錫は、を錆びから保護する役割がある。
近年、環境保全の観点から鉛の使用が制限されているため、ハンダ材の材料(鉛の代用品)として、また低融点合金ホワイトメタルの合金成分として利用されている。

錫は、同素変態を示す金属のひとつ。

スズ/Tin(Sn)
スズも同素変態を起こすことで有名である。
β スズ(白色スズ)常温から911℃までの安定相。
体心立方格子構造(BCC)を持つ強磁性体。
α スズ(灰色スズ)13.2℃以下で安定な非金属。
βスズからαスズへの変態は体積が約27%も増加するため、スズ製品がボロボロに崩れてしまう現象を引き起こす。
これはスズペスト※1と呼ばれ、これが原因とされる「西洋史でナポレオンにまつわる有名な話※2」が語り継がれている。
δ 鉄(デルタフェライト)1392℃から融点までの安定相。
その後、温度上昇とともに再び体心立方格子構造(BCC)に戻る。

※1 スズペスト 
スズ(錫)には、温度が下がると結晶構造が変化する「同素変態」という性質があります。
白スズ(β錫)は、 通常のキラキラした金属状態ですが。気温が約13.2°C以下になると、徐々に脆い灰色の粉末に変化して灰スズ(α錫)になります。
この現象が「スズペスト」と呼ばれ、一度始まると周囲のスズに伝染するように広がり、最終的には金属としての強度が失われ、ボロボロに崩れ去ってしまいます。

※2 ナポレオン伝説
1812年、ナポレオン率いる大軍(グランダルメ)がロシアに侵攻しましたが、このとき記録的な寒波に見舞われました。
当時のフランス軍の制服のボタンは「スズ製」だったと言われています。
猛烈な寒さ(氷点下30°C以下)によってボタンが「スズペスト」を起こして粉々に砕け、兵士たちはコートを前で留めることができなくなりました。
凍える手で服を押さえながら戦う羽目になり、軍隊としての規律や戦闘能力を喪失。それが壊滅的な敗北につながったという話です。
歴史や科学の雑学として非常に人気のあるエピソードですが、現在では「都市伝説」に近いものと考えられています。

その科学的な根拠として。
■  当時のスズボタンには通常、アンチモンなどの不純物が混ざっており、これらはスズペストの進行を遅らせる効果があること。
■  スズペストが金属を粉々にするには数週間から数ヶ月の時間がかかります。急激な戦闘の合間に一斉に壊れるとは考えにくいこと。
■  そもそも、ロシア遠征の失敗は「飢え」「チフス」「焦土作戦」「冬将軍」という圧倒的な悪条件が重なったもので、ボタンの有無に関わらず絶望的な状況であったこと。

上記の状況と事実から、実際には、ボタンが壊れた兵士もいたかもしれませんが、それが数十万の軍隊を崩壊させた決定打だったというのは、少し誇張されたエピソードだと言えるでしょう。

元   素   記   号  Sn
陽      子      数  50
価   電   子   数  4
原      子      量  183.710
融                点  231.97
沸                点  2270
密                度  5.75
存      在      度地球  2.5 ppm   宇宙  3.82
代表的な製品トタン・錫引き(銅食器などへのコーティング材)・缶詰容器(内側)

 

 

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