同素体(どうそたい)
Allotropic
同じ元素からなる単体で、原子の並び方や結合の仕方が異なる物質。
同素体には硫黄(S)・炭素(C)・酸素(O)・リン(P)の4種類がある。
例えば、炭素の同素体としてダイヤモンド・鉛筆の芯・フラーレン※がある。
→ 「フラーレンはダイヤモンドと同素体である。」
→ 「ダイヤモンドは炭素から同素体変化した物質である。」
※フラーレン
炭素原子のみで構成される、球状や楕円体状の分子の総称。
炭素の同素体の一つ。化粧品・医療分野・新素材・スポーツ用品などに応用される素材。
金属の同素体
金属の場合は、温度や圧力の変化によって結晶構造が変わり、異なる性質を示すものを「多形(polymorphism)」と呼ぶことが多く、特に元素の場合は、物質そのものを同素体とも呼ぶ。
金属の同素体は、「鉄」「錫」「チタニウム」「コバルト」「マンガン」などがある。
その物質が、別の同素体への変化する現象を同素変態と呼ぶ。
似た言葉で同位体がある。
同位体は、同じ元素で中性子の数が異なる原子のことを指す。
身のまわりにある同素体
炭 素/Graphite |
ダイヤモンドとグラファイトは、どちらも炭素原子でできているが、原子の結合が異なる。 ダイヤモンドは硬く透明であるが、グラファイトは柔らかく電気を通す。 身近なグラファイトとして鉛筆の芯がある。 |
酸 素/Oxigen |
酸素ガス(O2)とオゾン(O3)は、どちらも酸素元素から成るが、酸素ガスは生命活動に不可欠である、一方オゾンは強い酸化力を持つ不安定な気体。 |
金属の同素体
鉄/Iron(Fe) | |
鉄は、工業的に最も重要な同素変態を示す金属。 温度によって異なる結晶構造を持つことで知られ、これを相変態と呼ぶ。 鉄鋼材料の熱処理(焼き入れ、焼き戻しなど)はこの性質を巧みに利用している。 | |
α 鉄(フェライト) | 常温から911℃までの安定相。 体心立方格子構造(BCC)を持つ強磁性体。 |
γ 鉄(オーステナイト) | 911℃から1392℃までの安定相。 面心立方格子構造(FCC)を持つ非磁性体。 |
δ 鉄(デルタフェライト) | 1392℃から融点までの安定相。 その後、温度上昇とともに再び体心立方格子構造(BCC)に戻る。 |
チタニウム/Titanium(Ti) | |
チタンとその合金は、航空機や医療分野で広く利用されている。 | |
α チタン | 常温から911℃までの安定相。 体心立方格子構造(BCC)を持つ強磁性体。 |
β チタン(灰色スズ) | 885℃以上の高温で安定な体心立方格子構造(BCC)を持つ。 |
スズ/Tin(Sn) | |
スズも同素変態を起こすことで有名である。 | |
β スズ(白色スズ) | 常温から911℃までの安定相。 体心立方格子構造(BCC)を持つ強磁性体。 |
α スズ(灰色スズ) | 13.2℃以下で安定な非金属。 βスズからαスズへの変態は体積が約27%も増加するため、スズ製品がボロボロに崩れてしまう現象を引き起こす。 これはスズペストと呼ばれ、これが原因とされる「西洋史でナポレオンにまつわる有名な話※」が語り継がれている。 |
δ 鉄(デルタフェライト) | 1392℃から融点までの安定相。 その後、温度上昇とともに再び体心立方格子構造(BCC)に戻る。 |
コバルト/Cobalt(Co) | |
スズも同素変態を起こすことで有名である。 | |
α コバルト | 422℃以下の低温で安定な結晶構造で、六方最密充填構造 (HCP) を持っている。 |
β コバルト | 422℃以上で安定な結晶構造で、面心立方格子構造 (FCC) を持っ。 |
マンガン/Manganese(Mn) | |
スズも同素変態を起こすことで有名である。 | |
α マンガン | 727℃以下の常温で最も安定な同素体。 複雑な立方晶系の構造を持ち、非常に硬くて脆い性質がある。 |
β マンガン | 727℃から1100℃で安定な同素体。この構造も立方晶系だが、マンガンとは異なる複雑な構造をしている。 |
γ マンガン | 1100℃から1138℃で安定な同素体。面心立方格子構造 (FCC) を持ち、他の同素体よりも柔軟で加工しやすい。 |
δ マンガン | 1138℃から融点(1244℃)までの高温で安定な同素体です。 体心立方格子構造 (BCC) を持つ。 |
合金の場合、これらの金属に他の元素を添加することで、変態温度が変わったり、複数の相が共存するようになったりする。
これにより、硬度や靭性など、材料の性質を細かく制御することが可能となる。
■ ※「ナポレオンにまつわる有名な話」
1812年、ナポレオン率いるフランス軍はロシアへ侵攻しました。 しかし、ロシアの厳しい冬の寒さと飢えに苦しみ、遠征は悲惨な失敗に終わりました。
この時、フランス兵の軍服に使われていたスズ製のボタンが、寒さでスズペストを起こしてボロボロに崩壊したとされています。
その結果、『兵士たちはボタンが外れて防寒ができなくなり、凍死者や病死者が増えた』という話が残っており、これがナポレオンのロシア侵攻の敗因のひとつといわれています。
しかし、スズのボタンが崩壊したという確固とした証拠が見つかっていないことと、純粋なスズがスズペストを起こすには、非常に低い温度が長期間続く必要があり、ナポレオンの遠征期間中に軍服のボタン全体が崩壊するほどの変化が起きたかは疑問視されいます。
このため、この話は、ドラマチックな物語として都市伝説的に言い伝えられてきたものと考えられています。
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