ビスマス
Bismuth
ビスマスは古くから人類に知られていた金属であるが、長い間、鉛やスズ、アンチモンなどと混同されていた。15世紀頃のヨーロッパの文献にはビスマスに相当する物質の記録が見られ、18世紀になるとフランスの化学者クロード・フランソワ・ジョフロワ(Claude François Geoffroy)らの研究によって、鉛やスズとは異なる金属であることが明確になっていった。
元素名Bismuthの語源は完全には確定していないが、ドイツ語の「Wismut」などから現在の名称へ変化したと考えられている。古くから鉱山や冶金の現場で知られていた金属であり、その名称にもヨーロッパの鉱山技術の歴史が残されている。
ビスマスは、第6周期・第15族に属する金属元素である。電子配置は [Xe] 4f¹⁴5d¹⁰6s²6p³で、最外殻電子は5個である。主な酸化数は+3で、+5をとる化合物も存在する。
単体は銀白色からやや赤みを帯びた金属光沢を持ち、硬くてもろい。密度は約9.78と大きい一方、融点は約271.4℃と比較的低い。また、熱伝導率や電気伝導率は一般的な金属と比べて低く、強い反磁性を示すことでも知られている。
天然には自然ビスマスとして単体で存在する場合もあるが、主に輝蒼鉛鉱(Bi₂S₃)などの鉱物として産出する。また、鉛、銅、スズなどの鉱石を精錬する際の副産物として回収されることも多い。
ビスマスの特徴として重要なのが、鉛に比べて毒性が低い金属として利用されていることである。このため、環境や人体への影響を低減する目的から、鉛を使用してきた材料の代替元素として利用される場合がある。
用途は、低融点合金、鉛フリーはんだ、快削性を付与した金属材料、医薬品、化粧品、顔料、電子材料など幅広い。ビスマス化合物の一部は医薬品にも利用されており、金属元素でありながら材料分野以外にも重要な用途を持っている。
また、ビスマスをテルルと組み合わせたテルル化ビスマス(Bi₂Te₃)は代表的な熱電材料であり、温度差を電気エネルギーへ変換する熱電発電や、電流によって冷却するペルチェ素子などに利用されている。
| 元 素 記 号 | Bi |
| 陽 子 数 | 83 |
| 価 電 子 数 | 5 |
| 原 子 量 | 208.98038 |
| 融 点 | 約271.4 |
| 沸 点 | 約1,564 |
| 密 度 | 9.78 |
| 存 在 度 | 地球 約0.008 ppm 宇宙 極めて少ない |
| 代表的な製品 | 超電導ケーブル(芯部)・火災報知器の口金・低融点合金、鉛フリー銅合金、はんだ、温度ヒューズ、熱電材料、医薬品、化粧品、顔料 |
ビスマスと鋳造
ビスマスは鋳造分野において、低い融点と凝固時の特異な体積変化という二つの特徴を持つ元素である。
一般的な金属は、液体から固体へ凝固すると体積が減少する。これが鋳造における凝固収縮であり、引け巣などの鋳造欠陥を考えるうえで重要な現象である。
ところがビスマスは、凝固すると体積が増加する数少ない金属の一つである。
液体から固体になる際に膨張するため、ビスマスを含む合金では、この性質を利用して凝固収縮を小さくしたり、型の細部への密着性を高めたりすることができる。この特徴から、ビスマスを含む低融点合金は、精密な型取り、治具、固定材、可溶合金など特殊な用途に利用されてきた。
また、ビスマスはスズ、インジウム、鉛、カドミウムなどと組み合わせることで融点を大きく低下させることができる。組成によっては100℃以下で溶融する合金を作ることも可能であり、温度ヒューズ、安全装置、治具などに利用される。
近年では鉛の環境・健康影響への配慮から、鉛代替元素としてのビスマスも重要である。
銅合金では、従来、切削性を向上させる目的で鉛を含有した快削黄銅などが広く利用されてきたが、鉛使用量を低減するため、ビスマスを利用した鉛レス・鉛フリー銅合金が開発されている。
ただし、ビスマスは母相への固溶度が小さい場合が多く、粒界などへ偏析すると熱間加工性や延性を低下させることがある。そのため、単純に鉛をビスマスへ置き換えれば同じ性質が得られるわけではなく、合金組成、鋳造条件、凝固組織などを考慮した材料設計が必要となる。
ビスマスは鋳造において、「普通の金属とは逆に凝固時に膨張する」という特異な性質を持ち、さらに低融点合金や鉛代替材料にも利用される元素である。
虹色の金属結晶は、ビスマスそのものの色ではない
ビスマスという元素をインターネットなどで調べると、階段状の不思議な形をした、青、紫、黄色、緑などに輝く美しい結晶の写真を見ることがあります。
この特徴的な形は、骸晶(がいしょう:hopper crystal)と呼ばれる結晶成長によって生じることがあります。
結晶の面全体が均一に成長するのではなく、辺や角の部分が速く成長することで、中央部がくぼんだ階段状の形が形成されます。
さらに印象的なのが、その虹色の表面です。
しかし、ビスマスそのものが虹色の金属というわけではありません。新しい金属表面は銀白色を基調とし、わずかに赤みを帯びています。
美しい虹色は、ビスマスの表面に形成された非常に薄い酸化膜によって生まれます。
酸化膜の厚さが場所によってわずかに異なると、膜の表面で反射した光と、膜を通過して金属表面で反射した光が互いに干渉します。その結果、見る場所によって青や紫、黄色、緑など異なる色が現れます。
これはシャボン玉や水面に浮かんだ薄い油膜が虹色に見える現象と同じ「薄膜干渉」です。
つまり、私たちが見ているビスマス結晶の鮮やかな色は、顔料による色ではなく、わずかな酸化膜の厚さと光の波長がつくり出した色なのです。そして、溶かしたビスマスをゆっくり冷却することで、この特徴的な結晶を成長させることができます。
鋳造では凝固条件によって結晶組織が変化しますが、ビスマスの美しい結晶は、「金属が液体から固体へ変わるとき、どのように結晶が成長するのか」を目で見ることのできる非常に分かりやすい例ともいえます。
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