マンガン
Manganese
1774年、スウェーデンの化学者カール・ヴィルヘルム・シェーレ(Carl Wilhelm Scheele)は、軟マンガン鉱(主成分:MnO₂)の研究から未知の金属元素が含まれていることを示した。同年、スウェーデンの化学者ヨハン・ゴットリーブ・ガーン(Johan Gottlieb Gahn)が二酸化マンガンを炭素で還元し、金属マンガンの単離に成功した。
元素名(Manganese)は、マンガン鉱石を指した古い名称に由来する。その語源は複雑であるが、古くから二酸化マンガン鉱物がガラス製造などに利用され、マグネシアを意味する言葉と関連しながら現在のManganeseという名称へ変化したと考えられている。なお、マグネシウム(Magnesium)とは名称の歴史に共通する部分があるものの、まったく異なる元素である。
マンガンは、第4周期・第7族に属する遷移金属元素である。電子配置は [Ar] 3d⁵4s²で、遷移金属として3d・4s電子を含めると価電子数は7個となる。銀白色から灰白色の金属であるが、純粋なマンガンは硬くてもろく、一般的な構造材料として単体で使用されることは少ない。−3から+7まで幅広い酸化数をとり、特に+2、+4、+7が重要である。二酸化マンガン(MnO₂)や過マンガン酸塩など、酸化状態によって性質や色の異なる多くの化合物を形成する。
天然には単体ではほとんど存在せず、主に軟マンガン鉱(MnO₂)、菱マンガン鉱(MnCO₃)などの鉱物として産出する。マンガンは地殻中に比較的広く存在する元素であり、南アフリカ、オーストラリア、ガボンなどが主要な鉱石産出地域として知られている。また、深海底にはマンガンや鉄を主成分とし、ニッケル、コバルト、銅などを含むマンガン団塊が広く存在し、将来の海底鉱物資源として研究されている。
マンガンの最大の用途は鉄鋼材料への添加である。製鋼では脱酸や硫黄の影響を抑えるために使用されるほか、鋼に添加すると強度、硬さ、靱性、焼入れ性などを向上させることができる。代表的な高マンガン鋼であるハッドフィールド鋼は約12~14%のマンガンを含み、強い衝撃を受けることで表面が加工硬化するため、破砕機、鉱山機械、鉄道関連部品など高い耐摩耗性が必要な用途に利用される。また、二酸化マンガン(MnO₂)は乾電池の正極材料として古くから利用され、現在ではマンガンを含む材料がアルカリ乾電池やリチウムイオン電池などにも利用されている。鉄鋼から電池まで幅広い産業を支える重要な元素である。
| マンガン/Manganese(Mn) | |
| マンガンは、同素変態を起こすことが知られている。 | |
| α マンガン | 727℃以下の常温で最も安定な同素体。 複雑な立方晶系の構造を持ち、非常に硬くて脆い性質がある。 |
| β マンガン | 727℃から1100℃で安定な同素体。この構造も立方晶系だが、αマンガンとは異なる複雑な構造をしている。 |
| γ マンガン | 1100℃から1138℃で安定な同素体。面心立方格子構造 (FCC) を持ち、他の同素体よりも柔軟で加工しやすい。 |
| δ マンガン | 1138℃から融点(1244℃)までの高温で安定な同素体です。 体心立方格子構造 (BCC) を持つ。 |
| 元 素 記 号 | Mn |
| 陽 子 数 | 25 |
| 価 電 子 数 | 7 ※遷移金属として3d・4s電子を含めた場合 |
| 原 子 量 | 54.938049 |
| 融 点 | 約1246 |
| 沸 点 | 約2061 |
| 密 度 | 7.21 |
| 存 在 度 | 地球 約950 ppm 宇宙 10 ppm (質量比・概算) |
| 代表的な製品 | 鉄鋼、鋳鉄、高マンガン鋼、乾電池、アルカリ乾電池、リチウムイオン電池材料、過マンガン酸塩 ・脱酸材 |
マンガンと鋳造
マンガンは、鋳鉄や鋳鋼の成分設計において重要な元素であり、特に硫黄との関係を理解することが重要である。
鉄中に硫黄(S)が存在すると、鉄と結合して硫化鉄(FeS)を形成することがある。FeSは低融点の共晶を形成しやすく、結晶粒界などに存在すると高温で材料を脆くする原因となる。
ここでマンガンを添加すると、マンガンは硫黄との親和力が強いため、
Mn + S → MnS
として硫化マンガン(MnS)を形成する。
MnSはFeSに比べて高温まで安定であるため、硫黄をMnSとして固定することで、硫黄による高温脆性を抑えることができる。このためマンガンは、鋳鋼を含む鉄鋼材料において重要な成分となっている。
鋳鉄ではマンガンは硫黄を固定するだけでなく、基地組織にも影響を与える。マンガンはパーライトを安定化する方向に作用するため、適量の添加によって硬さや強度を高めることができる。
一方、マンガン量が過剰になると炭化物形成を促進し、鋳物を硬くして切削性や靱性を低下させる場合がある。そのため、鋳鉄では単純にマンガン量だけを見るのではなく、硫黄量、炭素量、ケイ素量、肉厚、冷却速度などを含めて成分を管理することが重要である。
また、球状黒鉛鋳鉄では硫黄が球状化処理に使用するマグネシウムと反応するため、溶湯中の硫黄管理が特に重要となる。マンガンは硫黄と結びつく元素ではあるが、球状黒鉛鋳鉄ではマンガンそのものも基地組織や偏析に影響するため、必要以上の添加は避け、目的とする材質に応じた管理が必要である。
このようにマンガンは鋳造において、単なる合金元素ではなく、硫黄の制御と鋳物の組織・機械的性質の両方に関係する重要な元素である。
消すために入れた鉱石が、ガラスを紫色にする
マンガンの代表的な鉱物である二酸化マンガン(MnO₂)は、古くからガラスづくりに利用されてきました。
昔のガラスには、原料に含まれる鉄分によって緑色や黄緑色が付いてしまうことがありました。そこで二酸化マンガンを加えると、鉄による色を打ち消す方向に働き、ガラスをより無色透明に近づけることができます。
このため、マンガン化合物は古くからガラスの脱色剤として利用されてきました。
ところが、マンガンを多く加えると、今度はマンガン自身によってガラスが紫色を帯びることがあります。
さらに興味深いことに、古い建物などで長期間太陽光を受けたマンガン含有ガラスが、時間とともに淡い紫色へ変化している例も知られています。
つまりマンガンは、
ガラスの色を「消す」ためにも使われ、条件によっては自ら「色を付ける」元素にもなるのです。
現在では鉄鋼や電池材料としての印象が強いマンガンですが、人類との関係は非常に古く、ガラスや顔料など「色」に関係する材料としても長い歴史を持つ元素です。
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