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銀と銅の合金の特性
銀と銅組み合わせは、古来より貨幣・食器・アクセサリーなどの装身具などで多用されてきた密接な関係で、古来よりわれわれの生活と関わりの深い合金です。
但し、組成次第では加工性や鋳造性の難易度が高くなるという難点があります。
銀に銅を混ぜると黄色味が増し、硬さが増します。銀に対して銅が7%までは、硬度が急激に増し、その後はゆるやかに硬度が増して、銅の含有量が95%で最大となります。これ以上銅を混ぜると純銅の特性に近くなるため軟らかくなります。銀と銅の合金は、金合金やプラチナ合金と比べてガスの含有が高くなります。
銀は、大気中で溶解すると多量の酸素を吸収しますが、銅と合金するとその性質が改善されます。銅は、溶解したときに酸素が入ると、この酸素は溶解酸素と酸化銅(Cu2O)の2種類に変化します。溶解時、この酸化銅は銅に溶け込みません。そして、凝固時に溶解酸素は放出されますが、酸化銅は結晶の粒界に集まり、金属の機械強度を悪くします。
酸化銅は溶解時間が長いほど多く形成されるので、硼砂や硼酸などで溶湯の表面を覆い、酸素との接触を断つか、溶解雰囲気を不活性ガスで還元雰囲気にすることが必要です。
1%(重量比)以下のインジウムを入れると酸化や銀の硫化を軽減できますし、また、脱酸材を使って酸素を追い出す方法も有効です。
銀と銅の合金は、固溶限を持っているため、775℃で溶態化処理を行い、210℃で30分間加熱したあと放冷すると硬くなります。
平衝状態図からみた銀-銅合金の特性
線 A – E - B | 液相線 |
線 A – C – E – D - B | 固相線 |
線 C - D | 共晶線 778.5℃ |
点 A | 銀の融点 960.5℃ |
点 B | 銅の融点 1083℃ |
点 C | 銀 91.2% 銅 8.5% |
点 D | 銀 8.2% 銅91.8% |
点 E | 銀 72.0% 銅28.0.% |
銀と銅の平衡状態図では、左側の縦軸が銀 (Ag)で、右側の縦軸が銅(Cu)の混合比率を%で表しています。純銀の溶解温度は960.5℃で、純銅は1083℃です。銀と銅を溶かして混ぜ合わせても、固溶体にはなりません。組成にもよりますが、結晶化する際に双晶せずに共晶状態になります。
スターリングシルバー(SILVER 925 / 銀925‰)では、概ね910℃で凝固が始まり、825℃で固体になります。コインシルバー(SILVER 900 /銀90‰)では、880℃で凝固が始まり、778℃で固まります。銅が8.8%以上から90%までは、固体になる温度が全て778.5℃となります。
共晶点(E)以外の合金割合の場合では、液相と固相の温度幅が大きく(A・C・Eのエリア及び、B・D・Eのエリア)、半溶解状の温度域が広くなっています。このような金属は偏析が起きやすい合金です。
銀合金で用途の広いスターリングシルバーは、共晶点から外れているので共晶反応と関係のない合金です。溶解状態のスターリングシルバーが冷却されていくと、液相線(A-E-Bを結ぶ線)以下の温度でα結晶を晶出します。固相線(A-C-E-D-Bを結ぶ線)以下の温度で結晶体となり、室温まで下がると固溶体の状態は1%以下になり、α結晶の中にβ結晶が析出した状態で安定します。
銀が90%と銅10%の合金、つまりコインシルバーの場合では、この合金が完全に混合している液相状態から液相線以下になるとα相が晶出し始め、共晶温度(E)まで下がると『共晶組織の中にα相の結晶がある』状態で凝固します。そして更に温度が室温まで下がると、α相の結晶の中にβ結晶が析出した状態で安定します。
銀-銅合金の共晶について
平衝図を見ると、液相線(A-E-B)より上の部分、つまり液体では溶け合っていますが、温度が液相線より下がると、銀と銅の割合によっていろいろな混合状態になります。
温度が固相線より下になると凝固しますが、銀と銅は固体状態になると温度が室温に下がる間にそれぞれ別の結晶になり、細かい結晶が混在する状態になります。この細かい結晶が混合した状態で別々に結晶が結びつくので、これを共晶といいます。
共晶組織は、銀が約72%、銅が約28%の割合で混ぜると、純金属と同様に液相線と固相線が同じ温度になります。この温度を共晶温度と呼び、銀と銅では778℃が共晶温度(E)となります。
この合金の場合、完全に溶解している混合状態から冷却すると、779.5℃で共晶反応により融液からα相とβ相の晶出が始まり、同じ温度で液体から固体になります。室温まで下がると99%以上の銀成分を持つα相と、99%以上の銅成分を持つβ相とで共晶組織が安定します。
共晶組織を持った合金は、焼き入れや焼きなまししたりすることにより物理的特性が大きく変化します。共晶組織は非常に微細なため、銀72%のときビッカース硬度でHv-100以上の硬さを出すことがあります。
950銀/五部落ち銀(メキシカンシルバー)
楽器のフルートなどで使用される品位です。中南米ではメキシカンシルバーとも呼ばれる品位です。柔らかすぎるためその他の物にはあまり使われないようですが、一部のアクセサリーで使われる場合があります。フランスでは【950】と【800】、イギリスでは【925】と【958】(BRITANNIA)が定められています。
925銀/スターリングシルバー
日本や欧米など、世界中で使われている品位です。これはイギリスで装身具の合金として発達したもので、別称でスターリングシルバーと呼ばれ、元は英国の銀貨(スターリングポンド)で使われた銀合金です。イギリスでは、貨幣や装飾用に使われ、欧米では銀食器の殆どがスターリングシルバーです。
スターリングシルバーは910℃で凝固が始まり、825℃で固体となります。結晶組織は、個体になってからの冷却状態で2つに分けられます。
- 鋳造後、約700℃で5分保持後、急冷した場合
凝固したときのα組織が室温になってもそのままの状態で残るので、硬度は柔らかくなります。Hv-50程度で、色味は白色になります。 - 鋳造後、約700℃で徐冷した場合
- α組織の周囲にα結晶とβ結晶の共晶組織が晶出するため時効硬化の特性が優れ200から300℃で保持するとβ組織が析出して硬くなります。
スターリングシルバーは固溶限を持っているため、775℃で溶態化処理を行い、210℃で30分間加熱したあと放冷するとβ組織が析出してHv-150程度の硬度が得られます。
尚、加工硬化したスターリングシルバーをそのまま硬化熱処理すると、部分的に内部応力が違うため硬化のバラつきが発生しますので、一度軟化熱処理を行った後に、硬化熱処理を行う必要があります。
スターリングシルバーの鋳造製品は、「鋳造方案」「鋳型温度」「鋳造後の冷却状態」によっては、収縮歪により内部応力が大きくなるので、冷却直前の温度に注意が必要です。
尚、軟化熱処理を行う際、高温で長時間加熱すると結晶粒子が大きくなり、良い結果が得られませんので注意が必要です。
一度凝固した鋳造品に熱硬化処理をする場合には、必ず軟化熱処理を行った後に、硬化熱処理を行って下さい。この場合には、焼成炉を使い280~350℃で30分以上加熱してから徐冷します。加工硬化したスターリングシルバーをそのまま硬化熱処理すると、部分的に内部応力が異なるため硬化のバラつきが発生してしまいます。
スターリングシルバーは、熱と冷却により著しく組織が変化するため、鋳造時に不安定な状態となりやすいので注意が必要です。
スターリングシルバーの軟化熱処理 |
600~700℃で、最低5分間加熱。その後、急冷 |
※ 製品形状により収縮歪による内部応力が大きくなるため冷却直前の温度に注意する。 |
スターリングシルバーの硬化熱処理 |
280~350℃で、30分以上加熱。その後、徐冷 |
※ 硬化熱処理の前に、必ず軟化熱処理を行う。 |
900銀/コインシルバー
各国のほとんどの銀貨が銀90%・銅10%の配合で作られているためにコインシルバーと呼ばれています。10%の銅が入っているため凝固時にはα結晶とβ結晶の共晶組織となります。
溶湯温度が液相線から固相線までの温度域の半溶解状態のとき、α型の初晶が発生して凝固を開始し、779℃の共晶温度以下でα型とα+βの組織となります。この状態から室温に下がるまでの間にαとβの組織は、室温における含有量まで固溶している他の成分を析出し続けます。つまり、αは銅分を、βは銀分を析出し室温でこの動きを停止します。
この合金はスターリングシルバー程には硬化しませんが、熱処理をしないスターリングシルバーより硬くなります。具体的な数値でいうと、高温から急冷した場合硬度は、Hv-56程度ですが、熱処理硬化するとHv-99となります。また、コインシルバーはスターリングシルバーより鋳造性が良く、平均して良質の鋳物が得られます。
800銀/食器用シルバー/
造幣局で行う貴金属製品の品位証明で認められている品位で、安定した硬度と強さを備えています。
スターリングシルバーより強く、硬度も銀-銅合金としては高いので、銀器などで広くつかわれており安定した強さと硬度を備えています。
715銀/電気接点用シルバー
銀71.5%と銅28.5%の銀-銅合金は、その物理特性を利用して電気接点などに利用されています。この合金はバネ性があるため装身具の金具などにも使われています。
この合金は、778.5℃で固体から液体になります。共晶合金のため固相と液相の温度幅がないため鋳造に適した合金と考えられがちですが、実際には鋳造タイミングが難しく鋳造方案によっては鋳巣などの鋳造欠陥が発生しやすい難点があります。
778.5℃で固体から液体になるということは、瞬時に変態するという意味ではなく、実際には下表で示したように共晶温度で保持され、時間的には充分な猶予がありすぎるほどですが、相が凝固に転じた瞬間に固体になるので、鋳造品の形状に合わせた溶解状態かどうかの判断が困難なので鋳込みのタイミングが計りにくいのです。特に鋳物の形状が肉薄であったり複雑な場合、鋳込まれた溶湯が先端部に届く前に凝固し、鋳込み不良や鋳巣が発生する可能性があります。
鋳造地金を良好な状態にするため、ルツボ内での溶解時に脱酸材を使って脱ガスを行うことも必要です。
500銀/ピンクシルバー
銀50%と銅50%の銀-銅合金は、共焦点より銅側の配合となるため凝固組織の状態が銀リッチのものと変わります。
この合金が冷やされて液相から固相になるとき、まず(銀リッチの配合で現れる)β結晶が結晶の核として出晶し、溶湯が「粥」状になります。次いで、「α+β」の組織が核を囲む状態で凝固します。ちょうど銀800/コインシルバーで説明をしたαとβが入れ替わったようなものです。
合金の色は研磨後でも赤味がかかった銀色となります。硬度は、共晶金属配合『715銀/電気接点用シルバー』よりやや軟らかくなります(『銀-銅合金のブリネル硬度』と『銀-銅合金の引張強度』参照)。
その他の品位
コマーシャルシルバー (SV999)、ブリタニアシルバー (SV958)、ダッチシルバー(SV833)、ダニッシュシルバー(SV826)などがあります。すべて銅との二元合金です。