鋳造用語集

同素変態(どうそへんたい)
Allotropy

特定の元素が異なる原子配列や結晶構造を持つ、複数の異なる単体となる現象、及び変化する現象を指す。
これらの単体(同素体)は、同じ種類の原子で構成されているが、性質が大きく異なる。
つまり、ある種類の元素だけで出来ているが、見た目や性質が違う「兄弟」のようなものになる現象を指す。
金属の場合では、特に温度の変化により結晶構造が変わり、それにより特性が大きく変化することを指す

同素変態は、しばしば同素体変化と同義で使われることもあるが、厳密には異なる概念。
「同素変態」は状態や性質を指すのに対し、「同素体変化」はその状態が変わる過程を指す。

同素変態の例

同素変態を示す元素には、「炭素」「酸素」「リン」「硫黄」などがある。
金属では、「」「」「チタニウム」「コバルト」「マンガン」などがある。

  金属の同素変態

鉄/Iron(Fe)
鉄は、工業的に最も重要な同素変態を示す金属。
温度によって異なる結晶構造を持つことで知られ、これを相変態と呼ぶ。
鉄鋼材料の熱処理(焼き入れ、焼き戻しなど)はこの性質を巧みに利用している。
α 鉄(フェライト)常温から911℃までの安定相。
体心立方格子構造(BCC)を持つ強磁性体。
γ 鉄(オーステナイト)911℃から1392℃までの安定相。
面心立方格子構造(FCC)を持つ非磁性体。
δ 鉄(デルタフェライト)1392℃から融点までの安定相。
その後、温度上昇とともに再び体心立方格子構造(BCC)に戻る。
チタニウム/Titanium(Ti)
チタンとその合金は、航空機や医療分野で広く利用されている。
α チタン常温から911℃までの安定相。
体心立方格子構造(BCC)を持つ強磁性体。
β チタン(灰色スズ)885℃以上の高温で安定な体心立方格子構造(BCC)を持つ。
スズ/Tin(Sn)
スズも同素変態を起こすことで有名である。
β スズ(白色スズ)常温から911℃までの安定相。
体心立方格子構造(BCC)を持つ強磁性体。
α スズ(灰色スズ)13.2℃以下で安定な非金属。
βスズからαスズへの変態は体積が約27%も増加するため、スズ製品がボロボロに崩れてしまう現象を引き起こす。
これはスズペストと呼ばれ、これが原因とされる「西洋史でナポレオンにまつわる有名な話」が語り継がれている。
δ 鉄(デルタフェライト)1392℃から融点までの安定相。
その後、温度上昇とともに再び体心立方格子構造(BCC)に戻る。
コバルト/Cobalt(Co)
スズも同素変態を起こすことで有名である。
α コバルト 422℃以下の低温で安定な結晶構造で、六方最密充填構造 (HCP) を持っている。
β コバルト422℃以上で安定な結晶構造で、面心立方格子構造 (FCC) を持っ。
マンガン/Manganese(Mn)
マンガンは、同素変態を起こすことが知られている。
α マンガン727℃以下の常温で最も安定な同素体。
複雑な立方晶系の構造を持ち、非常に硬くて脆い性質がある。
β マンガン727℃から1100℃で安定な同素体。この構造も立方晶系だが、マンガンとは異なる複雑な構造をしている。
γ マンガン1100℃から1138℃で安定な同素体。面心立方格子構造 (FCC) を持ち、他の同素体よりも柔軟で加工しやすい。
δ マンガン1138℃から融点(1244℃)までの高温で安定な同素体です。
体心立方格子構造 (BCC) を持つ。

合金の場合、これらの金属に他の元素を添加することで、変態温度が変わったり、複数の相が共存するようになったりする。
これにより、硬度や靭性など、材料の性質を細かく制御することが可能となる。

■ ※ナポレオンにまつわる有名な話
1812年、ナポレオン率いるフランス軍はロシアへ侵攻しました。 しかし、ロシアの厳しい冬の寒さと飢えに苦しみ、遠征は悲惨な失敗に終わりました。
この時、フランス兵の軍服に使われていたスズ製のボタンが、寒さでスズペストを起こしてボロボロに崩壊したとされています。
その結果、『兵士たちはボタンが外れて防寒ができなくなり、凍死者や病死者が増えた』という話が残っており、これがナポレオンのロシア侵攻の敗因のひとつといわれています。
しかし、スズのボタンが崩壊したという確固とした証拠が見つかっていないことと、純粋なスズがスズペストを起こすには、非常に低い温度が長期間続く必要があり、ナポレオンの遠征期間中に軍服のボタン全体が崩壊するほどの変化が起きたかは疑問視されいます。
このため、この話は、ドラマチックな物語として都市伝説的に言い伝えられてきたものと考えられています。

 

 

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