同素変態(どうそへんたい)
Allotropy Transformation
特定の元素が異なる原子配列や結晶構造を持つ、複数の異なる単体となる現象、及び変化する現象、又は、単一の元素が温度や圧力によって結晶構造を変化させる現象です。
これらの単体(同素体)は、同じ種類の原子で構成されているが、性質が大きく異なる。
つまり、ある種類の元素だけで出来ているが、見た目や性質が違う「兄弟」のようなものになる現象を指す。
金属の場合では、特に温度の変化により結晶構造が変わり、それにより特性が大きく変化することを指す。
同素変態は、しばしば同素体変化と同義で使われることもあるが、厳密には異なる概念。
「同素変態」は状態や性質を指すのに対し、「同素体変化」はその状態が変わる過程を指す。
鉄の同素変態
同素体を持つ、最も有名なのは鉄で、常温では体心立方格子 (BCC) のアルファ鉄(フェライト)だが、910℃を超えると原子が拡散して面心立方格子(FCC)のγ鉄(ガンマ鉄/オーステナイト)に変化する。
この例のように、フェライトからオーステナイトになる変態を同素変態という。
スズの同素変態
白スズ(β錫)は、 通常のキラキラした金属状態であるが、気温が約13.2°C以下になると、徐々に脆い灰色の粉末に変化して灰スズ(α錫)になる。
この現象は、「スズペスト」と呼ばれ、一度始まると周囲のスズに伝染するように広がり、最終的には金属としての強度が失われ、ボロボロに崩れる。
これが原因とされる「西洋史でナポレオンにまつわる有名な話※」が語り継がれている。
※ ナポレオン伝説
1812年、ナポレオン率いる大軍(グランダルメ)がロシアに侵攻しましたが、このとき記録的な寒波に見舞われました。
当時のフランス軍の制服のボタンは「スズ製」だったと言われています。
猛烈な寒さ(氷点下30°C以下)によってボタンが「スズペスト」を起こして粉々に砕け、兵士たちはコートを前で留めることができなくなりました。
凍える手で服を押さえながら戦う羽目になり、軍隊としての規律や戦闘能力を喪失。それが壊滅的な敗北につながったという話です。
歴史や科学の雑学として非常に人気のあるエピソードですが、現在では「都市伝説」に近いものと考えられています。
その科学的な根拠として。
■ 当時のスズボタンには通常、アンチモンなどの不純物が混ざっており、これらはスズペストの進行を遅らせる効果があること。
■ スズペストが金属を粉々にするには数週間から数ヶ月の時間がかかります。急激な戦闘の合間に一斉に壊れるとは考えにくいこと。
■ そもそも、ロシア遠征の失敗は「飢え」「チフス」「焦土作戦」「冬将軍」という圧倒的な悪条件が重なったもので、ボタンの有無に関わらず絶望的な状況であったこと。
上記の状況と事実から、実際には、ボタンが壊れた兵士もいたかもしれませんが、それが数十万の軍隊を崩壊させた決定打だったというのは、少し誇張されたエピソードだと言えるでしょう。
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