包晶反応(ほうしょうはんのう)
Peritectic Reaction
2元合金が凝固する際の変態の一種。
ひとつの固相とひとつの液相冷却の際に反応して、全く新しい固相を生成する反応。
包晶反応のしくみ
冷却過程において、ある特定の温度(包晶温度)で以下の反応が起こる。
Liquid + α → 冷却 β
■ 反応プロセス
① 初晶の析出
融液(液相)を冷やしていくと、まず融点の高い方の成分を多く含む固相α(初晶)が固体として現れる。
➁ 界面での反応
包晶温度に達すると、残っている凝固とすでに析出している固相αが反応し、αの表面を覆うように新しい固相βが形成される。
③ 反応の停滞
αの周囲をβが完全に包み込んでしまう(「包晶」の由来)と、液相とαが直接接触できなくなる。
そのため、その後の反応は固体内の拡散に頼ることになり、反応速度が極めて遅くなるのが特徴。
代表的な合金系
包晶反応は、成分元素の融点に大きな差がある場合に顕著に見られる。
| 合 金 系 | 反応の具体例 | 特 徴・影 響 |
| 鉄-炭素系 | L+ δフェライト → γオーステナイト | 炭素含有量が低い鋼(約0.1〜0.5%C)で発生。 凝固時の体積収縮により、鋳造欠陥(ひび割れ)の原因になりやすい。 |
| 銅-亜鉛系 | 真ちゅうの生成過程 | 亜鉛の比率が変わる段階で複数の包晶反応を経由し、複雑な組織を作る。 |
| 銅-スズ系 | ブロンズ | スズの含有量が多い領域で発生し、耐摩耗性などに影響する。 |
| 銀-白金系 | 貴金属系合金 | 宝飾品や接点材料などで見られる相変態。 |
包晶反応の特徴と注意点
■ 組織の不均一性
反応が途中で止まりやすいため、中心にα相が残り、その周りをβ相が囲む「包晶組織」と呼ばれる独特の二重構造(芯のある構造/偏析)が残りやすい。
■ 鋳造の難しさ
鋼の連続鋳造において、包晶反応に伴う急激な収縮は不均一な凝固シェル(固まった皮)を作り、縦割れなどの表面欠陥を引き起こす最大の要因の一つとして知られている。
包晶反応に由来する鋳造欠陥の軽減
鉄 鋼 系
1. 化学成分の調整
包晶反応の影響を最も強く受ける範囲(炭素含有量など)を避ける、または反応の激しさを和らげる方法。
■ 成分範囲の回避
最も反応が激しいとされる炭素含有量(鋼の場合、約0.10〜0.15%付近)を避け、亜包晶鋼(炭素低め)や過包晶鋼(炭素高め)に調整することで、急激な収縮リスクを低減する。
■ 炭素当量(Ceq)の管理
炭素以外の元素(Mn, Si, Niなど)も相変態に影響する。
これらを考慮した「炭素当量」を計算し、包晶領域から外れるように合金設計を行う。
■ Mn/S比の向上
不純物である硫黄(S)は熱間脆性を引き起こし、包晶反応によるひび割れを悪化させる。
マンガン(Mn)を添加してMn/S比を一定以上(例:150以上/無次元量)に保つことで、割れを抑制する。
2. 冷却時間の制御
鋳型内での冷却速度をあえて遅くする。
急冷すると凝固シェル(固まった皮/包晶組織の外側)が不均一に縮んで隙間ができ、さらに熱伝達が悪化してひび割れする。
緩やかに冷やすことで、シェルを均一に成長させる。
3. その他の方法
■ 微細化剤の添加
凝固組織(結晶粒)を微細化する元素(Ti, Nb, Vなど)を添加することで、応力を分散させ、大きなひび割れに発展するのを防ぐ。
■ 電磁攪拌
溶融金属を電磁力でかき混ぜることで、温度分布と成分を均一化し、局所的な包晶反応の集中を抑える。
真ちゅう(Cu-Zn合金)
真ちゅうは亜鉛(Zn)の含有量によって複数の相を持つが、特に β相が関わる包晶反応が重要となる。
■ 成分の微調整と第3元素の添加
包晶反応の影響を抑えるため、アルミニウム(Al)やスズ(Sn)を微量添加し、状態図上の相境界を移動させる。
これにより、望ましくない包晶組織の生成を抑制し、耐食性や強度を調整する。
■ 熱処理(拡散焼鈍)
真ちゅうの包晶反応は「芯残り(包晶包囲)」が起きやすいため、凝固後に高温で長時間加熱(アニール)を行う。
これにより、固体内拡散を促進させ、不均一な組織を均質な単一相(または安定相)へ変化させる。
| 項 目 | 条 件(目安) | 目 的・理 由 |
| 加熱温度 | 600°C ~ 800°C | 固体内での原子の移動(拡散)を活発にするため、融点に近い高温に設定する。 |
| 保持時間 | 3時間 ~ 10時間 | 拡散は非常にゆっくり進むため、肉厚な鋳物の場合は長時間保持が必要となる。 |
| 冷却方法 | 徐冷(炉冷) | 急冷すると新たな歪みや割れが生じる可能性があるため、ゆっくり冷やすのが基本。 |
補 足
■ 70/30黄銅(1相真鍮)
比較的低温(500〜600°C)でも時間をかければ均一化が進む。
■ 70/40黄銅(2相真鍮)
α相と β相が混在するため、より高い温度(700°C以上)でβ相への固溶を促進させることが一般的。
真ちゅうの熱処理における注意点(失敗を防ぐために)
高温で長時間加熱するため、以下のリスクに注意が必要となる。
■ 脱亜鉛(Znの蒸発)
亜鉛は融点が低く蒸発しやすいため、高温で長時間さらすと表面から亜鉛が抜けて赤っぽく変色(脱亜鉛現象)し、性質が変わってしままう。これを防ぐには不活性ガス雰囲気での加熱が理想。
■ 結晶粒の粗大化
温度を上げすぎたり、時間を長くしすぎたりすると、結晶粒が巨大化してしまい、機械的強度が低下(脆くなる)してしまう。
「必要最低限の温度で、じっくり時間をかける」のがコツとなる。
■ 「芯」を完全に消すのは難しい
非常に大きな鋳物の場合、芯(初晶)を完全に消すには膨大な時間がかかるため、実務上は「後続の圧延や鍛造(熱間加工)で壊しやすいレベルまで拡散させる」ことをゴールにすることもある。
ブロンズ(Cu-Sn合金)
ブロンズは、スズ(Sn)の拡散速度が非常に遅いため、包晶反応が完了せず、偏析(成分のムラ)が顕著に出やすい合金。
■ 凝固速度のコントロール
ブロンズ鋳物では、一方向性凝固を考えながらホットスポットの位置などを考慮し、可能であれば、「フィン」や「フィレット」を設計して冷却速度を速め、デンドライト(樹枝状結晶)の間隔を細かくする必要がある。
これにより、未反応の液相が孤立するのを防ぎ、組織を緻密にする。
■ 逆偏析の防止
包晶反応に伴う収縮で、スズ濃度の高い液相が外側に吸い出される「逆偏析」が起きることがある。
これを防ぐため、押し湯の量を多くし、可能であれば加圧鋳造などを用いて収縮分を補填しながら凝固させるのが理想的である。
銀-白金系(Ag-Pt合金)
この系は融点差が大きく、非常に広範な包晶領域を持つ。
宝飾品や接点材料として使われるが、加工性が課題となります。
■ 急冷凝固
銀と白金の融点差による激しい偏析を抑えるため、急冷によって包晶反応が進行する時間を与えずに固化させることがある。
これにより、過飽和固溶体を作り、その後の熱処理で組織を制御しやすくする。
■ ゾーンメルティング
高純度な材料が必要な場合、溶融帯を移動させることで包晶反応による成分変動を逆利用し、不純物元素を一方に寄せる、あるいは組織を均一化させる手法が取られる。
共通する「軽減」の考え方
非鉄合金全般において、包晶反応の弊害(組織の不均一)を打破する共通の手法は以下の通りとなる。
■ 均質化熱処理
鋳造後の「芯残り」組織を解消するために必須の工程です。
■ 結晶粒微細化
ホウ素(ボロン)(B)やジルコニウム(Zr)などの微細化剤を添加し、包晶反応が起こる界面を分散させることで、局所的なひずみを抑える。
| 結晶粒微細化剤の添加量 | |
| ボ ロ ン (B) | |
| 添 加 量(目安) | 3 ppm ~ 50 ppm (3/100000~5/10000) |
| 特 徴 | ボロンは特に、鉄(Fe)を微量に含む真ちゅうにおいて劇的な効果を発揮する。 液相中で鉄と結びついて「FeB」や「Fe2B」 といった高融点の化合物を形成し、それが核となって多数の結晶を同時に発生させる。 |
| 注 意 | スズ(Sn)が0.4%を超える合金(一部の青銅など)では効果が薄れるという報告がある。 |
| ジルコニウム (Zr) | |
| 添 加 量(目安) | 100 ppm ~ 2000 ppm (1/10000~2/1000) |
| 特 徴 | ジルコニウムは、炭素(C)や窒素(N)と反応して ZrCやZrN などの核を作ります。 ボロンよりも広範な銅合金(青銅、丹銅など)に有効だが、硫黄(S)が含まれているとその効果が著しく阻害される性質がある。 |
| 注 意 | ジルコニウムは酸化しやすいため、保持時間が長いと効果が消失しやすいのが欠点。 |
■ 2つの元素を併用する利点
ボロンとジルコニウムの併用には「相互補完」と「相乗効果」の両面で大きな効果がある。
1. 適用範囲の拡大(相互補完)
ボロンは鉄が存在する場合に強く、ジルコニウムは鉄の有無に関わらず核を作る。これらを併用することで、原料(スクラップなど)の成分変動に左右されず、安定して組織を微細化が可能となる。
2. 核生成の効率向上(相乗効果)
ボロンとジルコニウムが同時に存在すると、二ホウ化ジルコニウム (ZrB2) という極めて融点が高く(約3000℃)、銅の結晶構造と親和性が高い化合物が形成される。
これが最強の「核」となり、単独添加のときよりも少ない添加量で、より微細な組織( equiaxed grain:等軸晶)を得ることが可能となる。
3. 包晶反応の「局所化」と「分散」
組織が微細化されると、包晶反応が起こる面積(粒界の総延長)が飛躍的に増える。
● ひずみの分散
1箇所あたりの収縮ストレスが小さくなり、マクロなひび割れが防げる。
● 拡散距離の短縮
結晶粒が小さい=「芯」が小さいため、後の焼きなまし(均質化熱処理)で成分ムラを解消するのが圧倒的に早くなる。
■ 実用的なアドバイス
1. 添加順序
一般にジルコニウムは酸化しやすいため、脱酸を十分に行った後、最後の方に添加するのが定石となる。
2. 不純物管理
ジルコニウムを使う場合は、硫黄(S)の含有量を極限まで下げる(またはマグネシウムなどで中和する)必要がある。
3. 母合金による添加
非常に微量添加のため、金属単体ではなく「Cu-B母合金」や「Cu-Zr母合金」の形で母合金をつくるか、市販のフェロアロイがあれば、これを計量し投入するのが一般的。
鋳造用語 索引
