金属と凝固(中級編)/偏析とは

ロストワックス鋳造ブロックモールド法(ソリッドモールド法)の解説です。

合金を鋳造するとき、凝固後に合金の成分や不純物の分布になぜ偏りが発生するのか?
この合金成分の偏りで、製品強度や耐食性、貴金属製品では鋳造品の場所により貴金属成分の偏りが発生したり、極端な場合には、表面の発色に斑が発生するようなさまざまな問題が発生します。
これは、まず、偏析のメカニズムを理解する必要があります。

 

偏析がおこる理由

偏析は、合金の凝固範囲(液体から固体に変わる温度の幅)がある場合に発生します。凝固が始まる際に、固相(固体)と液相(液体)の間で成分の濃度が異なるためです。この違いは分配係数によって決まります。

ここで、「偏析は、必ずおこるのか」という疑問が頭の中をよぎるのではないかと思います。残念ながらすべてのケースではありませんが、ほとんどの合金で発生するといっても過言ではありません。

分配係数、k0=CS(平衡状態図の凝固が始まる濃度) / CL (平衡状態図の溶解が始まる濃度)の商が1となる合金、純金属、共晶金属での共焦点組織にある合金、そしてガラス金属(結晶をもなたない金属)は、偏析が起こりません。

偏析とデンドライト構造は密接な関係がありますが、デンドライト構造を取らない「平面凝固(Planar Solidification)」や「セル状凝固(Cellular Solidification)」でも、残念ながら偏析は起こります。

 

金属凝固における分配係数とは

分配係数とは、溶解している金属が凝固する際に、その中に混ざっている不純物や合金元素が、固まる部分とまだ液体の部分のどちらにどのくらい多く「分かれるか」を表す数値です。

金属と凝固/なぜ金属は偏るのか(分配係数について)で分配係数について詳しく説明していますので、ご興味のある方はそちらを参考にして下さい。

 

偏析の種類

偏析の種類は、大きく分けて「ミクロ偏析(Micro-segregation)」と「マクロ偏析(Macro-segregation)」に分類されます。
しかし、マクロ偏析は、そのプロセスや鋳造条件の違いにより発生する偏析種類により、その呼び名が変わります。例えば「正常偏析(Normal Segregation)」や「逆偏析(Inverse Segregation)」はマクロ偏析の一つです。

ミクロ偏析やマクロ偏析については、別のコラムで詳しく掲載する予定ですので、ご興味のある方は別途ご参照下さい。

 

偏析がおこる理由

偏析は、合金が凝固する際に、固体液体の間で成分の濃度が異なるために発生します。このプロセスの鍵となるのは、凝固界面での溶質の再分配です。
もう少し簡単にいうと、合金が凝固する際に、成分の濃度が不均一になる現象のことです。鋳物の中で、特定の場所だけ特定の元素が濃く集まったり、逆に薄くなったりします。

 

偏析が発生するプロセス

① 凝固の開始と溶質の押し出し

合金の温度が液相線(liquids line)を下回ると、結晶の核が発生し、固相(固体)の成長が始まります。このとき、固相は溶質(溶けている成分)を液相よりも多く、または少なく取り込む性質があります。この性質は分配係数(k0)によって決まります。

k0<1 の場合
固相は溶質をあまり取り込みません。その結果、溶質は凝固界面から液相側に押し出され、固相のすぐ前の液相の濃度が高くなります。つまり、溶けている成分は、液体の方に濃縮されていきます。

k0>1 の場合
固相は溶質を多く取り込みます。この場合、液相の溶質濃度は徐々に低くなります。つまり、溶けている成分は固体の方に取り込まれるため、残った液体の溶質濃度は薄くなります。

② 凝固の進行と液相の濃縮

凝固が進行するにつれて、固相は成長し、溶質が押し出された液相は鋳物内部へと移動します。この液体は、凝固が進むにつれてどんどん溶質が濃縮されていきます。

③ マクロ偏析とミクロ偏析の発生

マクロ偏析

凝固収縮が起こると、鋳物内部で圧力が生じ、溶質が濃縮された液体が流動します。この流れによって、鋳物全体で成分の不均一が引き起こされます。

正常偏析
溶質が濃縮された液体が鋳物の中心部に集まり、最後に凝固する中心部が溶質過多になります。

逆偏析
凝固収縮による圧力で、溶質が濃縮された液体が鋳物の外周部へと押し出され、外周部が溶質過多になります。

 マクロ偏析は、鋳造物全体にわたる大きな偏析です。
 鋳造物の外側と中心部で成分が異なります。
 正常偏析と逆偏析で、それぞれ成分が濃縮される場所が異なります。
 表面に偏析が発生した場合、成分の偏りが可視できる場合があります。

ミクロ偏析

凝固が樹枝状結晶(デンドライト)として進む場合、結晶の枝の中心部と枝の間で溶質の濃度に差ができます。結晶の中心部は最初に固まるため、周囲に押し出された溶質が枝の間に濃縮されます。これにより、結晶内部でミクロな組成の不均一が生じます。

 結晶粒(樹枝状結晶)の中といった、ごく微細なスケールで発生する偏析です。
 結晶の中心部と、結晶の枝と枝のあいだで成分の濃度が異なります。
 非常に小さいため、顕微鏡などで見る以外に目視はできません。

 

偏析の対策

結論からいうと、残念ながら偏析を完全に防止することは、きわめて困難です。しかし、偏析は凝固の際に成分が不均一になる現象であり、その原因は凝固する速度や方向、そして凝固する際の液体の流れにあります。したがって、これらの要因を制御することが最も効果的な対策となります。

A.  凝固速度の制御

急速凝固
鋳型全体を均一に、かつ急激に冷却することで、凝固時間を短くします。
これにより、溶質が拡散する時間がなくなり、ミクロ偏析を最小限に抑えることができます。
また、結晶粒が微細化し、鋳造物の機械的性質が向上します。

指向性凝固
鋳造での溶融の凝固は、薄い部分から徐々に凝固が進み、最後に最も厚い部分が凝固し、溶湯の流れ込む先端部から凝固が始まり、湯道付近で凝固が完了します。しかし、この凝固の順番が変わる場合、鋳造物内の部分的な場所で凝固が開始されると、成分の偏りにより凝固の順番が変化します。これを防止するために凝固が湯道部で完了するような湯道方案を検討し、冷却の方向を制御します。

「急速凝固」と「指向性凝固」により溶質の濃縮が最後に凝固する場所に集まり、製品部の偏析を減らすことが期待きます。
しかし、実際の鋳造では、鋳造品の冷却においてホットスポットの問題が発生します。特に、ロストワックス鋳造の場合、ブロックモールド法セラミックシェル法のいずれにしても、残念ながら砂型鋳造ホットスポット対策で鋳物の部分的な冷却を行うための金属の小片「当て金(チル)」を鋳型内に入れることができないため、この方法以外のホットスポット対策が必要です。つまり、溶湯の鋳造温度調節、湯道方案湯だまりの組み合わせで解決する必要があります。

B.  物理処理

攪 拌
溶湯を良く攪拌し、成分の偏りを少しでも少なくすることや電磁攪拌などで凝固界面の温度や組成を均一に保つことが大切です。

■  ソフトリダクション(軽圧下)
連続鋳造などで、凝固末期の鋳片にわずかな圧力をかけることで、凝固収縮によって生じる隙間を埋め、溶質が濃縮された液体の流れを抑制します。
これにより、中心偏析などのマクロ偏析を効果的に防止できます。

C.  合金組成の調整

貴金属製品では、元来、貴金属品位や見かけ上の色の問題もあるため、鋳造地金自体に微量元素の添加が無く、添加物などによる微量元素の添加も困難な場合があります。
一方、工業製品など、貴金属製品以外の鋳造では、偏析の原因となる不純物(硫黄S、リンPなど)を溶湯段階で減らすことも有効です。
ただし、これは合金自体の特性に影響を与えるため、他の要件とバランスを考慮する必要があります。

 

貴金属製品の偏析

貴金属を主とする合金の場合で、偏析が顕著に発生する注意すべき組み合わせを紹介します。

銀 (Ag)と銅 (Cu)
スターリングシルバー四分一などに見られる、いわゆる「火斑(ひむら)」が発生します。製品表面に銀リッチと銅リッチの場所が集合的に発生するため、製品の表面の色合いがまだらになることがあります。鋳造温度が高いと凝固収縮が強く働き、逆偏析が起こる可能性があります。
金 (Au)と銀 (Ag)
いわゆるグリーンゴールド(青割り)では、通常は正偏析が起こります。-の二元合金の場合、銀の濃度が表面で高くなるため、金合金の色が黄色味を帯びます。
金 (Au)と銅 (Cu)
レッドゴールド(赤割り)に代表される銅の含有率が高い金合金では、銅が製品表面に浮き出るようになるため、製品表面の色合いが赤味を帯びたり、製品中心部に金が多く分布するため、表面での金の品位が若干低くなる可能性があります。
プラチナ(Pt)とイリジウム (Ir)
同じ白金族でありながら、イリジウムプラチナより凝固温度が高いため(融点差638℃)、先に凝固して核となり、プラチナが後から固まるために濃度差が生じます。一般的には逆偏析を起こすので、表面にプラチナが多く集まります。
プラチナ(Pt)とルテニウム(Ru)
プラチナとルテニウムプラチナ合金の場合、互いの融点の違い(融点差538℃)により、ルテニウムを多く含む結晶が先に固まり、成分の偏りが顕著に発生します。一派的には逆偏析を起こす組み合わせのため、表層がプラチナリッチとなります。このため機械的強度に偏りが発生する可能性があります。また、プラチナとルテニウムの成分比にもよりますが、この逆偏析により鋳造性を悪化させたり、凝固収縮による収縮鋳巣や環状(リング形状)では割れが発生します。

 

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