※ロストワックス鋳造のブロックモールド法(ソリッドモールド法)の解説です。
鋳造欠陥の中でも鋳造者を悩ます問題の一つに鋳巣があげられます。
鋳巣の原因は様々あり、その種類によって対応策が異なるからです。代表的な鋳巣の原因は、ゴマ鋳巣など温度に関連する鋳巣、金属の凝固プロセスと溶湯の温度に関連する収縮鋳巣、鋳型材の通気性・焼成の工程に関係するガス鋳巣などが挙げられます。
このコラムでは、ガス鋳巣に焦点をあわせ、鋳造地金のガスを軽減する効果が期待できる脱酸材について紹介します。
脱酸材とは
一般的に脱酸材とは、金属元素の酸素や硫黄に対して親和性がよく、酸素・硫黄・水素などと反応してガスを溶湯から化学的に取り除く材料を指します。
脱酸材は酸素などと結合して酸化物を作り気体として溶湯外部に排出したり、酸化物を作り溶湯の界面に浮遊します。
脱酸効果を含む添加用の微量元素は、金属を硬くするなど金属の性質を変える効果もあります。脱酸材は、人で言えば薬のようなものです。入れ過ぎると金属の性質を著しく変化させ金属が好ましくない状態になるので使用量には充分な注意が必要です。
微量元素の投入量は非常に少量で、しかも偏りなく混ぜ合わせなければならないため、微量元素と他の金属を混ぜた母合金を作り、これをフェロアロイとして主となる金属の溶解に加える方法がとられています。
また、工芸品の鋳造では、場合により一度使用した鋳造地金の押し湯やスプルーなどを再利用する場合があります。この際には地金の再生工程を行い鋳造地金として健全な状態に戻す必要がありますが、ほとんどの脱酸材は主となる合金中に残留するため、再生地金に脱酸材を投入する場合には、残留分も想定しながら投入過多にならないように注意が必要です。
脱酸材の種類
金属により脱酸効果が期待できる脱酸材の種類が異なります。
投入量については、1/1000から1%ですが、ほとんどの場合が1/1000から2/1000(重量比)が目安です。
亜鉛以外の元素は地金に残留するため、リターン材の再生で脱酸材を投入するときの投入量については、注意が必要です。
脱酸材の種類 | ||
元 素 名 | 対 象 金 属 | 脱酸効果以外の効能と注意 |
亜鉛 | 銀合金・金合金・銅合金 | 溶湯の流動性を向上させる。黄銅系及びアルミ青銅には合金材料に含有されているため不要。但し、溶解の際の亜鉛の蒸発分を補充する程度の添加は望ましい。 |
アルミニウム | 鉄系金属・ニッケル合金 | 脱酸効果に加え、鉄系金属の結晶粒を微細にする。但し、窒化するとAIN(酸化アルミニウム)を生成して著しく表面硬化する。 |
カルシウム | チタニウム合金・鋼・ステンレス | チタニウムの脱酸にはかかせない元素。カルシウムとケイ素の合金は、鋼やステンレスなどの特殊鋼の脱酸に使用される。製銑(鉄鉱石を還元して銑鉄をつくること)された銑鉄を鋼精錬して鋼を製鋼するさいにカルシウムが使われる。また、カルシウムの効能として、金の機械的強度を高めることが可能。 |
ケイ素(シリコン) | 鉄系金属・銅合金・銀合金・金合金 | 脱酸効果に加え、溶湯の流動性を向上させ、材料の強度を高める効果がある。鉄系合金には、二次脱酸材として使用される。 鉄系金属にはケイ素・鉄のフェロアロイ(フェロシリコン)を使用し、脱酸と鋼の強度を向上させる。 |
リン | 鉄系金属・純銅/青銅系合金・銀合金・金合金 | 一般的には不純物として扱われる。鉄系合金には被削性や耐食性を向上させる効果がある。粒界に偏析しやすい元素のため、材料の強度や靭性を低下させる。鋳造の押し湯に気化せず残留するため繰り返しの使用に注意する。但し、純銅や青銅では脱酸生成物が350℃で昇華し残留はないが、過剰なリンは銅合金の凝固温度が広がるため注意する。 |
チタニウム | 鉄系金属 | 過剰投入で材料の硬化と脆化の原因となる。また、酸素・窒素・水素の固溶度を上げるため使用量に注意する。 |
ベリリウム | マグネシウム | ベリリウムは、溶湯のマグネシウムの酸化を減少させる。 溶湯の脱酸効果は無いが、凝固後の金属表面に不活性膜を作るため、アルミニウム・マグネシウム・銅合金などの金属固体の酸化を防ぐ効果がある。 |
ホウ素(ボロン) | 銀合金 | 銀合金中の酸素との親和性に富み、優先的に酸化物を形成・分離して、凝固後に溶湯界面にスラグとして浮遊させる。 ホウ素の化合物である硼砂(四硼酸ナトリウム)は、脱酸効果はないが、878℃でガラス状になり溶湯界面に浮遊するため界面から侵入するガスを遮蔽する効果がある。硼酸(酸化ホウ素)も850℃前後で溶解し硼砂と同様の効果がある。硼砂や硼酸は、脱酸材を投入した後、チタニウムやプラチナ合金などの一部の金属を除く殆ど全ての金属の溶解で使用が可能。 |
マグネシウム | 鉄系金属 | 酸素と硫黄に対する親和性が強い。『投入量は1%が目安でそれ以上入れても効果に変化は望めない。マグネシウムの投入はCu-Mgの母合金で行う。マグネシウムはマグネシウム球状黒鉛鋳鉄において球状黒鉛中に臨界以上残留することが必要』。 参考論文:「球状黒鉛鋳鉄におけるマグネシウム添加による反応性/岡林 邦夫」 |
マンガン | 鉄系金属 / プラチナ合金/ニッケル合金 | マンガンは、酸素と結合し酸化マンガンを形成して酸素を取り除く効果がある。 鉄系金属の脱酸及び、脱硫黄効果がありフェロアロイ(フェロマンガン)を添加する。高炭素フェロマンガンと中低炭素フェロマンガンがある。鉄系合金の脱酸では一次脱酸材として使用される。 また、ステンレスには、マンガン・ケイ素・鉄からなるフェロアロイ(シリコマンガン)が脱酸・脱硫と成分調整として使用される。 プラチナ合金・ニッケル合金の脱酸材として使用され、ケイ素(シリコン)やアルミニウムの脱酸効果をより高める効果がある。地金中に残留する。残留量が多いと粒界に偏析し、材料の強度や靭性を損ねるため、鋳造後の押し湯などでの再生時には添加量に注意する。 |
脱酸材/亜鉛
脱酸材/リン銅
脱酸材/マンガン